(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.005_対象

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なぜだ?

指に負った軽い焼けどなんて、ヒール一発で治るはずなのに・・・

大した焼けどでもないが、ショックのせいか患部がヒリヒリと痛む。仕方ない・・・水で冷やして応急処理だ。

それにしても解せない。エスティナは、障害が発生したシステムに対して放つことができたのに、なぜヒールが効かないんだ?

まだ魔法を使うためのMPが体に残っているのは、自分でもよく分かる。なのにどうして?

まったく・・・さっきから分からないことだらけだ。芸満(ゲイマン)という人間として生き返ったり、モンスターがいない世界だったり・・・

オレは考えるのを一旦あきらめて飯を食らう。

「ふぅ・・・うまかった・・・・」

さて、腹が満たされたら気分も落ち着いた。改めて見ると、なんとも殺風景な部屋だな。

本棚には「詳細Linux読本」、「DHCPの基礎」、「運用技術者が知っておくべき鉄則集」・・・などなど、おそらくシステム関連の本なのか。どうやら芸満(ゲイマン)という人間は、それなりに勉強熱心だったように見える。

中身を読んでみるが、さっぱり分からない。なるほど、システムを正しく理解するためには、それなりに高度な知識が必要ということだな。

オレも賢者になるための筆記試験で苦労したもんなぁ。

あとは会社にも置かれていた箱のようなもの・・・たしかパソコンって呼ばれてたな。

ん、パソコンの横にメモが書かれているな。どれどれ・・・

『6月10日、パソコン故障。お茶をこぼしてしまったせいかと思われる。起動ボタンを押してもOS起動中にハングするので要修理』

芸満(ゲイマン)の字だろうか・・・なかなかの達筆である。

しかし、要修理ということなら、こちらの世界ではどう直すつもりなのだろうか?

「ヒール!」

オレは冗談のつもりで、パソコンに向かったヒールを放ってみた。

さっきはオレの指に唱えても全く効果がなかったので、もしかするとこちらの世界ではヒールが使えないのだろう。

『ウォン・・・カタカタカタ・・・』

「えっ!?」

パソコンが音を立てて動きだした。まさか、オレのヒールが効いたとでもいうのか?お茶をこぼしたことでパソコンが受けたダメージを回復したものと思われる。

「ヒール!」

今後はオレの焼けどした指に再度ヒールをかけてみたが、効果なし。

パソコンには効いて、オレの指には効かない・・・

理由は分からないが、どうやらオレの魔法はこっちの世界でも確実に使えるということだ。

だた、効力を発揮する対象がオレではなく、さきほどのシステムやこのパソコンだったということ。

ためしに、あの本棚に向かって攻撃魔法を唱えるとどうなる?

「プチウインドっ!!!」

本来であれば、本棚の本が散乱する程度の微風が発生するはずだが、何も起こらない・・・

ならば、あのパソコンに向かって放つとどうなる?

「プチウインドっ!!!」

パソコンの画面上に表示された「ログイン」と書かれた画面がガタガタと揺れ、アイコンのようなものがたくさん表示された画面に切り替わった・・・

パソコンからは、『うぃぃぃん』という音が鳴り響いている。苦しそうな音だな。

『あなたのパソコンはウイルスに攻撃されています』

なんだ、この変なメッセージは・・・このパソコンは見えないウイルスという敵と戦っているということか?だとすれば、これも何かの縁。手助けしよう。

「ウインドカッター!!」

魔法を唱えた直後、パソコン上のメッセージは消え、苦しそうな音が消えた。

・・・・

・・・・

よく分からんが、一つだけ分かったことがある。

オレの魔法は目の前にある物や人には使えず、システムやパソコンに対して効くということだ。

vol6.へ続く