(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.006_暴露
目を覚ましたら元の世界に戻っていないかと期待しながら寝たが、目を覚ましてもオレは殺風景な部屋にいた。
「やれやれ、どうやら本当に現実らしいな。」
独り言をつぶやきながら、オレはタンスにかけられてあった前日と同じような服装に着替えて、真木さんたちのいる会社へと向かう。徒歩でいうと10分くらいの距離だ。
先日はひどい頭痛で周りを見る余裕はなかったが、改めてみると元の世界とは異質とも呼ぶべき光景が広がっている。
高速で走る乗り物。
魔王の居城よりも高層な建築物。
道行く人間は、手に持った小さな画面のようなものを見ながら歩いている。皆揃いも揃って、何をそんなに見ているんだろう?
実はオレも同じようなものを持っている。他者と話すために使用する機械ということは、真木さんから聞いているが、彼らの使用っぷりを見ると他にも使い道がありそうだ。
見慣れぬ風景に目を奪われながら歩いていると、あっという間に会社に着いた。
会社に着くと金内部長が、待ってましたと言わんばかりにオレにかけよってくる。イヤな予感しかしない・・・
「おお!芸満(ゲイマン)、来たか!さっそくで悪いんだが、先日の障害報告をするために鈴木グローバルテクノロジーシステム社に行くぞ!」
鈴木グローバルテクノロジーシステム社?金内部長の言いっぷりからするに、この会社に仕事を委託している会社か。
やれやれ、朝っぱらから面倒くさそうな話だ。
「金内部長、おはようございます。了解です。」
とりあえず、オレは心ここにあらずな返事を返す。
まぁ、先方に何を聞かれたところで、オレには分からんがな。
昨日のシステム障害を直したのはオレ本人なのだが、オレは魔法を唱えたにすぎない。
おそらく、金内部長や先方が期待しているのは、今回の障害について何が原因でどうやって復旧させたのか?次起きないようにどうするのか?といったところだろう。
ま、素直に魔法(エスティナ)で直したと言いたいところだが、信じてもらえないだろうし、また言いかけたところで謎の頭痛がきても困るから、適当に誤魔化すしかないな。
こうして、鈴木グローバルテクノロジーシステム社には金内部長、オレ、そして真木さんで向かうことになった。
先方の会社に着くと、明らかに不機嫌そうな顔をした男が待つ部屋に通された。
「佐伯様、ご無沙汰しております。金内です。この度は、多大なるご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。」
金内部長が、開口一番、佐伯と呼ばれた男に謝罪している。
「今回の一件、ユーザにも影響が出てるんで本当に困りますよ。お宅のザルな運用のせいで、こんな障害になっちゃって・・・一体どうしてくれるんですかねー?」
佐伯という男、高圧的な人間で、どうやら委託先のオレらのことを見下しているようだ。
金内部長は、真木さんが整理した報告書を読みながら説明している。
説明によると、今回の障害は、そもそも、鈴木グローバルテクノロジーシステム社が無理なスケジュールで追加依頼してきた箇所で発生したらしい。
コスト削減・スピード重視のため、テストは最低限で実施し、あとは先方がチェックするという話になっていたそうだ。
佐伯は金内部長の説明を聞き終えるや、声を荒げる。
「ごちゃごちゃ言っているけど、今回のシステムを開発したのはお宅でしょー!?うちのチェックが悪かったから、今回の障害が起こったって言いたいのかよ!?」
佐伯は、立て続けに「こんなことなら他の会社にすればよかった」だの、「障害ももっと早く直せよ」と文句を言ってくる。
そして、今回のことは許すから、次追加する機能の開発費をさらに安くするように申し入れて来た。
なるほど、このシステムを扱う業界はピラミッド構造なんだな。オレたちはコイツらの都合のよいように働かされ、利益を搾取されている。
金内部長も、またか・・・とばかりに困った顔をしている。
佐伯の一方的とも言える発言・・・どうも話ができすぎていないか?
今回の障害に関する報告を聞くことなんて最初から頭にはなく、次の開発にかかる金を値下げさせることが、佐伯の当初からの目的としか思えない。
そもそも、無理なスケジュールで依頼されて確認が足らずに今回の障害になったのだから、次の開発では同じ轍を踏まないように十分な金と時間を確保することが大切なんじゃないか?
そうじゃないと、また同じことが起こるし、いつまでたってもオレがいる会社は値下げ要求を、飲まされ続けることになる。
「佐伯さん、お言葉ですが・・・」
オレは思っていることを率直に佐伯に話した。
オレは弱いものを踏みにじる姑息なやり方が嫌いでたまらなかった。金内部長に断りを入れずに発言してしまったことを、後で咎められるかもしれないが、知ったこっちゃない。
思いの他、金内部長は、ビックリしながらオレを静止するフリはするが、それ以上止められることはなかった。
金内部長も本心では、言ったれやー!って思ってたりしてw
佐伯は顔を真っ赤にして、「他に発注することになるぞ」と脅してくる。
勝手にどうぞ、と言いたいところだが、さすがに金内部長たちに迷惑をかけることになるので、そこは自重した。
さて、佐伯をギャフンと言わせる最善手はないものか?
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
そういえば、オレはパソコンに対して魔法を使えるんだった。
もしかして、コイツのパソコンにも効くか?
オレは佐伯のパソコンに対して、混乱系の魔法《パニックス》を誰にも聞こえない小声で詠唱した。
佐伯がふとパソコンに目をやり、「ん?・・・勝手にメールが転送された?」とつぶやく。
ピロリン
金内部長の携帯に、一通のメールが転送されてきた。
そこには、この会社に値下げ受注できるように追加機能にバグを残したまま、リリースさせる旨が書かれたメールが転送されてきた。
やっぱりな。読み通りだ。
どうやら佐伯は組織的にうちの会社を安く働かせるように仕組んでいたようだ。
vol7.へ続く