(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.027_相対
「え、えっと、神宮寺さん・・・よろしく。基盤管理部の芸満(ゲイマン)です。なんでまた、アプリケーション開発部配属なのに基盤管理部の自分のところに?」
オレは動揺を必死に抑えながら、金内部長と神宮寺さん(ミカエル)を交互に見ながら話す。
「えっとぉ、あたしプログラミングは得意なんですけどぉ、インフラのことはあまり知識がなくてぇ。長くIT業界で生きてくために、勉強させてほしいって金内部長にお願いしたんですぅ。」
神宮寺さん(ミカエル)の答えに、金内部長も乗っかってオレに説明してくる。
「ヤル気あるコだろ?特にうちの部署では真木とお前は期待のメンバーだ。そこで、神宮寺さんを真木とお前に預けて成長してもらおうってわけよ。」
ま、まぁ、建前としては分かった。
そんなことより、「なぜミカエルがこっちの世界に来たか」ということを掴む必要がある。
偶然オレたちに会ったとは到底思えない。
明らかに意図的にオレに接触してきている。まずは、ミカエルと話をしなければ・・・
「金内部長、事情については分かりました。神宮寺さん、これからよろしく頼むね。まずは、オレたちが作業をしているオフィススペースを案内するよ。」
オレはそう言って、神宮寺さん(ミカエル)をオフィススペースの方に案内する。
金内部長は「よろしくー」と言って、帰宅した。
・・・・・・・
・・・・・・・
「あの・・・神宮寺さん・・・と呼んだらいいのかな?」
オレは歩きがてらミカエルに向かって、恐る恐る話しかける。
ミカエルはクスっと笑い、視線を前に向けたまま口を開く。
「そうだねぇー、ここではその名前で呼んでもらおっかな。芸満(ゲイマン)先輩♪あたしが現れて驚いたでしょ~?」
「そりゃ、さっき殺されてるから恐怖に近い驚きだね。」
オレは皮肉を込めて応える。
「もうっ、あたしだって好きで殺したわけじゃないんだよぉ~。こっちの世界に転移して真木さんをサポートできる素質をもつのは、あなただけなんだから仕方なくやってるのぉ!」
神宮寺さん(ミカエル)が、プンプン顔になっている。
可愛いんだが、本来オレなんかが気軽に話せるような存在ではないんだよな・・・なんでこうなった・・・
ミカエルはプンプン顔のまま話を続ける。
「今回、あたしがアースに来たのも、実は想定外のこと。あなたがティアマトをケプラで顕現させたことで神はこれまで以上にティアマト復活に神経を尖らせているんだよぉ。」
アース・・・こっちの世界の呼び名か。ケプラは元の世界の呼び名だ。
なるほど・・・オレが真木さんからもらったクッキーを元の世界ケプラで食べたことで、ティアマトを顕現させてしまった。
そして、それを憂慮した神が、ミカエルをアースに派遣して直接監視させようってことか。
「ミカエル・・・いや、神宮寺さん、事情は分かった。だが、こっちの世界アースで、どうやってティアマトを監視するつもりなんだ?」
神宮寺さん(ミカエル)は悩ましげな表情を浮かべ答える。
「それは、あたしも悩んでるとこなんだよねぇ。アースはケプラと違って魔法の法則が異なっているから、実力でティアマトを抑えることは難しそう。なので、ここまで真木さんとイイ感じに接している芸満(ゲイマン)先輩を見ながら、あたしなりに活動するつもり。ってなワケなので、よろしくねぇ~♪」
ふむ・・・神宮寺さん(ミカエル)も具体的な活動はこれからってわけか。
神の命令には逆らえないから、渋々来ましたってところなのかな。
「なるほど、神宮寺さんも手探りってことが分かったよ。ま、ひとまずシステムエンジニアとして人手が欲しかったのは事実だ。オレの方こそよろしく頼むよ。」
神宮寺さん(ミカエル)はニッコリ笑って、オレが指さしたオフィススペースに入って行った。
追ってオレもオフィススペースに入ると、奥の方で真木さんが黙々と資料を作っているのが見える。
そして、入り口すぐのところで険しい顔で立ち尽くし、真木さんを見る神宮寺さん(ミカエル)の姿があった。
「どうした、神宮寺さん?真木さんを紹介するから、一緒に行こう。」
オレが神宮寺さん(ミカエル)をエスコートしようとすると、彼女は恐怖を通り越して微笑の声をかすかに漏らしていた。
「フッ・・・フフフ・・・ケプラで奴(ティアマト)に聖槍(ホーリーランス)をブチ込んだ時は、大したことないと思っていたが、やはり本体と相まみえると強大な力をビンビン感じちゃうね・・・」
オレには神宮寺さん(ミカエル)の言っている意味が分からなかった。
というのも、オレは真木さんから何の力も感じていないからな。
神宮寺さん(ミカエル)クラスの存在(天使)ともなると、真木さんの中に邪神ティアマトの存在を感じ得ることができるのだろうか。正直、よう分からんっす。
とりあえず、オレは武者震いしている神宮寺さん(ミカエル)を連れて真木さんのところに行く。
「真木さん、おつかれ。ちょっとイイかな?金内部長がオレたちのサポート役に1人新人さんを付けてくれたんだ。」
真木さんがキーボードを打つ手を止めて、こちらを見る。
「あ、芸満(ゲイマン)先輩・・・新人さんって・・・えと・・・こちらの方がそうですか?」
神宮寺さん(ミカエル)はオレの後ろに隠れ、ソーっと顔を出して真木さんを見ていた。何をやっているんだコイツは・・・
「そ、そうそう、ちょっと緊張しているみたいなんだけど、プログラミング大会でも優勝した実力者だ。神宮寺さん、挨拶しとこっか。」
オレは神宮寺さん(ミカエル)をグイっと前に押し出して、真木さんの正面に立たせる。
傍からみたら、入社したての新人さんと先輩社員の挨拶風景。
よもや、天使ミカエルと邪神ティアマトが相まみえている光景だとはオレ以外知る由もないだろう。
神宮寺さん(ミカエル)は、声を絞り出すように真木さんに向かって第一声を放った。
「は、は、は・・・はじめましてぇ!!!ファインダーシステム部アプリケーション開発部に配属になったじ、神宮寺といいます!ま、ま、真木先輩・・・これからよろしくお願いしますっ!!」
オレはズッコケそうになった。
じ、神宮寺さん(ミカエル)・・・本当にただの新人じゃないよね・・・?
vol28.へ続く