(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.033_PK

(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.033_PK

オンラインゲームにおいて、特にMMOやMOと呼ばれるジャンルでは、(ほぼ一方的に)殺害するプレイヤーのことを「PK(Player Killer)」あるいは「PK(Player Kill)する」キャラと呼ばれるらしい。

以前、真木さんに教えてもらったので知識だけはあったのだが、まさか鈴木グローバルテクノロジーシステム社をクビになった佐伯がPK[saeki-k]として現れるとは思わなんだ・・・

[saeki-k]はオンラインゲームの機能であるチャットを通して、こちらに話しかけてきた。

『やぁ。ファインダーシステム社のクソ諸君。元気にクソでもしているかい?』

な、なんだこいつ・・・元々イカレタ野郎だとは思っていたが、会社をクビになって本性むき出しで挑発してきたな・・・

『お前らのせいで、私の人生はお先真っ暗状態だよ。ムカつくからお前らが一生懸命運営しているこのゲームでPKしまくって、ユーザ離れさせてやるかんなぁぁぁぁ!!!ごるぁぁぁぁぁ!!!!』

逆恨みも甚だしい。とんでもない奴に因縁をつけられてしまったとため息が出る。

しかし、この状況をなんとかしないと本当にユーザが離れていってしまう。

なんとかして[saeki-k]を止めないと。

「真木さん、運営者の権限をつかって強制的に佐伯を退場させられないのかな?」

オレは真木さんに尋ねるも、真木さんはクビを横に振る。

「それが・・・すでに試みようとしているのですが、アクセス権がないようで、退場させられないんです・・・おそらくですが、これも佐伯元課長がコッソリと仕込んだ機能なのだと思います・・・」

くそっ・・・バグだけではなく、こんな面倒キャラまで仕込んでいたとは・・・みんなで楽しむはずのオンラインゲームを何だったと思っているんだ・・・

「佐伯課長は・・・いえ、saeki-kは、私のキャラで対処します!」

真木さんが突然、並々ならぬ決意が込められた声でオンラインゲーム画面を操作し始めた。

真木さんのディスプレイ上には[makirin]と表示されたキャラが立っていた。

「私のキャラもゲーム内だとかなり強い方なので、私がsaeki-kを抑えてみせます!」

真木さんはそういうと、[makirin]と書かれたキャラを[saeki-k]が暴れまわる場所まで移動させ、攻撃をしかけた。

『ちぃ!まさか神聖装備の最上位キャラを育てているとはな・・・いいだろう、相手にとって不足はありませんねぇ。』

佐伯がチャットで応答してくる。

これまで無傷だった[saeki-k]は[makirin]の攻撃でダメージを受けている!!

オレがディスプレイを凝視してプレイしている真木さんを応援していると、神宮寺さん(ミカエル)がオレに小声で話しかけてきた。

「芸満(ゲイマン)先輩・・・まずいよ。ゲーム上とはいえ、真木さんが他のプレイヤーを殺すのは邪神の力を強めることになってしまう。」

なにぃ!?どんな設定だよ!?

しかも、そんなことを言って佐伯を放置していは。それこそヤツの思うがままだ。

「分かっている。だから、あたしが真木さん・・・もといmakirinに代わって、saeki-kを倒す!」

そういうと、神宮寺さん(ミカエル)は別のPCからオンラインゲームにログインした。いつの間にキャラクターを作ったんだ・・・とツッコミたかったが、そのキャラクターは[michael]となっていた。

「さぁて、ではPK征伐に行きますかね。」

神宮寺さん(ミカエル)はぺろりと自身の唇を舐めて、[michael]を[makirin]と[saeki-k]が戦う決戦の場へと移動させた。

その頃、[makirin]と[saeki-k]の戦いはまさに最高潮の場面を迎えようとしていた。

互いに半分を切るほどのHPになったところで、[makirin]の放つ神聖攻撃によって、[saeki-k]を窮地に追い込んだのだ。

『ちぃぃぃいっ!!!この私がここまで追いつめられるとは・・・』

佐伯がチャットで悔しさを滲ませる。

真木さんは、佐伯を諭そうとチャットで応じる。

『佐伯課長・・・もうこんなことは止めてください。せっかくこのゲームを楽しんでいるユーザさんを妨害したところで、誰も幸せになりません。』

しばらくの沈黙の後、佐伯がチャットで応答してきた。

『くくくっ・・・幸せとは片腹痛い。私は貴様らが困り苦しむ様が見れればそれで充分なんだよぉぉぉ?』

イカレテる・・・

『ときに、makirinとやら。私をPKするのは良いが、その代償は大きいぞ。せっかく育てたそのキャラも結局のところPKとして烙印を押されることになるがよいのですかぁぁ?』

「くっ・・・」

ディスプレイを見る真木さんの顔が曇る。

どうやらPKすることは、このゲームにとっては殺人者と同じような扱いを受けることになるようだ。

PKしたという事実は永久に残り、makirinはこのゲームに存在する限り、ずっとPK扱いとなってしまうらしい。

真木さんの一瞬の躊躇いによってmakirinの攻撃の手が止んでしまった。

その瞬間、saeki-kはすかさず切れ味するどい攻撃で逆にmakirinを窮地に追い込んだ。

「くっ、しまった。まずい・・・!!」

真木さんがディスプレイを凝視しながら苦悶の表情を浮かべる。

『うひゃははははは!!!甘いっ!!ゲロあまだよぉぉぉ!!PKに躊躇するくらいで私に挑もうなど100万年はやぁぁぁい!!!』

佐伯の喜々とした表情が目に受かぶようなメッセージをチャットで送ってくる。鬱陶しいことこの上ない・・・

だが、まずいぞ。このままでは真木さんがやられてしまう。

ガシンッ!!!!

[saeki-k]が[makirin]に仕掛けたトドメの一撃を別のキャラが間一髪で受け止めた。

「ふぅ・・・なんとか間に合いました・・・大丈夫ですか真木先輩・・・もといmakirin?」

神宮寺さん(ミカエル)が操るキャラ[michael]が辛うじて間に合ったのだ。彼女はディスプレイを凝視しながら独り言を喋っている。

だが、神聖装備もない[michael]はこの一撃でひん死状態だ。まずい、これだとmakirin共々、saeki-kにやられてしまう。

「じ、神宮寺さん(ミカエル)・・・あと一発で確実に死んじゃいそうだけど、大丈夫か?」

俺がディスプレイを凝視する神宮寺さん(ミカエル)に話しかけると、彼女は振り返り、オレの目を真っ直ぐに見つめた。

vol34.へ続く