(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.024_変化
目が覚めると、そこはSE芸満(ゲイマン)の部屋だった。
もうこのパターンにもいい加減慣れてきたので、特段の驚きや戸惑いはない。
オレは天使ミカエルの聖槍(ホーリーランス)に貫かれ死んだ。(十中八九、勇者も死んでるな)
そして、神の力によってこちらの世界に転生・・・もとい、転移したというわけか。
そして、転移の目的は神話時代に神が倒した邪神ティアマトの復活を阻止すること。
・・・・・・・
「ぐおぉぉぉぉぉあああああああああ!!!!!!」
話があまりにもデカすぎてオレは思わず、その重圧に耐えきれず叫んでしまった。
はぁはぁ・・・オレにどうしろってんだ。
ミカエルが言うには、邪神ティアマトが転生した真木さんの中で不安や悩みが大きくなることで、邪神の意識が強まると。
そして、オレが真木さんをサポートすることで、邪神の意識を抑えることができる・・・とも言っていた。
オレに出来ることなんて、こちらの世界では非力も同然だが、真木さんの力にはなりたいと思っているから、サポートすること自体に異論はない。
だが、人間はどう生きたって悩み、苦しみ、もがく生き物だ。
それらを全て抑えこむことなんて出来るはずがないし、抑え込むなんて気持ちが悪い。
それに、一瞬ではあったが、邪神ティアマトにオレは何ら敵意も感じなかった。
・・・くそっ、何が正しいのか分からない。
オレが頭を抱えていると、枕元に置いてあったスマートフォンが鳴った。
ラインっ
真木さんからだ・・・
『芸満(ゲイマン)先輩、おはようございます!すみません、電車が少し遅れているみたいで、鈴木グローバルテクノロジーシステム社での待ち合わせ時間に遅れそうです。』
そうだった。今日は里中部長に真木さんが考えたクラウド化の提案書を説明しに行く日だ。
オレは慌てて着替え、鈴木グローバルテクノロジーシステム社に向かう。
社に到着すると、受付ロビーに見慣れた中年のオッサンが仁王立ちで待ち構えていた。
「よぉ!芸満(ゲイマン)。おはようさん!今日はよろしく頼むぜー!」
金内部長だ。
本当は昨日ぶりなんだろうが、オレは元の世界に戻って色々あったので久ぶりな感じだ。
「おはようございます、金内部長。真木さんは、電車の都合で少し遅れてくるそうですよ。」
オレは軽く会釈がてら挨拶し、真木さんが遅れてくることを伝える。
「そうかぁ、了解。ところで・・・」
金内部長はオレを近くにあったソファに座らせ、隣に座ってきて耳の近くでコソコソと話してきた。
「真木のことだが・・・最近よく頑張っているが、お前なんかしたのか?」
えっ!?金内部長も真木さんが最近変わったと思っているのか。
「いえ、オレ・・・いや、私は特に何もしてないですよ。気づいたときには、既に真木さんはとても頑張っているコでしたけどね。」
オレは金内部長に返答する。
金内部長はそうかぁと言わんばかりに、オレから少し離れ、顔を上に向けて座りなおした。
「いや、な。お前がこの前、障害をババっと直したあたりから真木が変わったなぁと思ってな。それまでのあいつは、言われた仕事は一生懸命やっていたが、何やってもダメで、周りからも怒られっぱなし。ついには仕事もあまり振られなくなってきている感じだっただろ。」
そ、そうなのか。
その話は俄かに信じがたいが、オレが初めてこの世界に転移してくる以前の話なので事実だと捉えるしかない。
「そ、そうでしたっけね。でも、最近は少しずつ自分に自信を持ってきて、積極的に仕事に取り組んでいますよ。」
オレは素直に思っていることを金内部長に話した。金内部長も嬉しそうに頷く。
「あぁ、たぶんだが、お前のサポートが真木には合っているんだろう。アイツはまだまだ伸びる。これからも面倒みてあげてな。」
そう言いながら金内部長は、オレの肩をバンバンと叩く。い、痛い。
だが、もし金内部長の言っていることが本当ならば、オレが転移する前の真木さんは相当な悩みや不安を抱えていたのだろう。それによって、邪神ティアマトの意識が徐々に復活したのかもしれない。
「か、金内部長~!芸満(ゲイマン)先輩ぃ~!遅れてすみませんでした・・・!はぁはぁ・・・」
おっ、噂をすれば真木さん到着。まだ打ち合わせまで時間があるから、そこまでダッシュしてこなくてもよいのに(笑)
「おはよう真木さん、昨日はぐっすり眠れたかな?」
オレは真木さんに笑顔で話しかける。
「おはようございます、先輩!昨日は久しぶりに爆睡しちゃいました!」
はは、それはよかった。元の世界で見たティアマト版の真木さんの表情とは違ってやっぱり温かい感じがするな。
・・・・・・
・・・・・・
ミカエルは言った。『ティアマトの復活を阻止せよと。』
そして、復活のカギは真木さんの精神状態に深く関わっている。
正直言って、ティアマトの復活阻止なんてオレには責任重大すぎて背負いきれるとは思えない。
だが、真木さんをオレの出来る範囲でサポートすることは出来るはずだ。
鈴木グローバルテクノロジーシステム里中部長が受付までエスコートしに来た。
「おはようございます。みなさん。さぁ、こちらの会議室へどうぞ。」
里中部長は、通路奥にある会議室にオレたち3人を通す。
「真木さん、何かあったらオレがフォローに入るから、思い切って説明しなよ。」
オレは真木さんに拳を向けた。
「はい!芸満(ゲイマン)先輩。私・・・頑張ります!」
真木さんはオレの拳に彼女の拳を軽くぶつけてきた。
魔王討伐より面倒なミッションを抱えてしまったが、こうなったらやるっきゃない。SE芸満(ゲイマン)、いくぜ!!
オレは気合を入れて、会議室に足を踏み入れた。
vol25.へ続く