(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.002_英雄
「会社?いったいどういうことだ?」
オレは困惑した。なぜ生き返ったのに教会ではなく、会社にいるんだ?
会社とは、冒険者とは違い特定の場所で仕事をこなす組織のことだ。オレは冒険者だぞ。
しかも、オレの身に着けているものは先刻、魔王と戦っていた時の装備ではなく、白いシャツにグレーのズボン姿。こんなものでは魔王どころか、その辺にいるモンスターの一撃でひん死のダメージを食らってしまう。
「おいおい、障害対応に追われて頭でもおかしくなったのかー?さっ、引き続きログを見て、障害の原因を見つけてシステムを復旧させるぞ!頼むぞ!」
初老のオッサンがオレの肩をパンパンと叩くと、周りにいる他のメンバーにも鼓舞して回っている。
なんだかよく分からないが、今ここは大変な状況にあるらしい。
「いったい、何をすれば・・・」
オレがそう呟くと、隣に座っていた20代前半に見える女が困った顔でオレに話しかけてきた。
「芸満(ゲイマン)先輩、本当に疲れてるんですね。。。えっと、今は先輩の目の前にあるPCから、障害が発生したシステムに接続してログを解析しているところだったじゃないですか。ログ解析してたら、先輩が意識を失ったようにデスクに突っ伏しちゃったから・・・私びっくりしたんですよ。」
「そうなんだ・・・」
うーん、なぜオレが今ここにいるのか分からないが、ひとまず状況を整理するとこうだ。
- なぜか分からないが、オレは違う人物として生き返ってしまった(賢者ではなく、会社に属する人間)
- この会社は今、障害に直面し、対応に迫られている
- オレは障害の原因調査と復旧を任されている立場らしい
とりあえず、オレは後輩らしき女に話を合わせて、障害対応をやってみることにした。まぁ、勇者たちと冒険していた時も、毒やら呪いやらの障害に対応してきたしね。
「えっと、この画面に表示されている文字を読めばいいんだよな?」
オレは後輩らしき女に聞く。
「はい、文字・・・というかログを追って、このシステムに乗っているアプリがなぜハングしたのかを突き止めましょう。先月リリースした機能に致命的なバグがあったみたいで、それを直さないと業務が再開できません・・・・」
女は半泣きでオレに話す。
「分かった。とりあえずログとやらを読んでみよう」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
わ、分からんっ!!!!!!
いや、書いてある文字は読めるのだが、JavaやらRuntimeやら何のことかサッパリ分からん。
だが、この画面の向こうのシステムとやらが障害で動かないというのであれば、賢者であるオレが直してやろうじゃないか。
「エスティナ!」
オレはステータス異常を直す魔法を唱えた。
「??先輩??」
隣にいた後輩らしき女はポカーンとした顔でオレを見る。
・・・・・・・
なんだこいつ、エスティナも知らんのか?賢者が使える異常回復魔法だろうが。子供でも知っているぞ。
オレが残念な目で女を見ていると、周りがざわつき出した。
「おいっ!業務が再開できたぞ!!」
「オンライン、オフライン全て正常!監視アラートも上がっていません!」
「先輩っ!すごい!!何をやったんですか!?みんなで知恵を出し合っても対応できなかった障害を寝起きすぐで復旧させちゃうなんて!!」
・・・・・・・
いや、だからエスティナ唱えたんだってば。どうやら、この会社の人間は魔法に疎いようだ。説明するの面倒だから、適当に合わせるか。
「ま、まぁ、ログを改めて読んだら障害の箇所を特定できたんで、チャチャっと直したわけよ。」
後輩らしき女はオレを尊敬のまなざしで見てくる・・・エスティナなんて賢者職になれば割とすぐ使えるようになる魔法なんだけどなぁ。
「先輩凄すぎです!今、アプリケーションの変更履歴を確認しましたが、この一瞬の間に複数のアプリケーションのコードを修正しちゃったんですね!」
「おい、芸満(ゲイマン)!お前が復旧させたのか!?本当にどうなることかと思ったが助かったよ・・・感謝する!」
初老のオッサンもオレのところに駆け寄ってきて手を握り喜んでいる。どうやら、このシステムとやらは本当に重要な役割を担っているものらしい。
障害対応していた周りの人間もオレの方に集まり、賞賛の声をかけてくる。
いやぁ、長いこと賢者やってるけど、エスティナでここまで感謝されたことなかったな。まぁ、悪い気はしないが、ここの人間はもう少し魔法を勉強した方がよいね。
そんなこんなで、オレはこの会社で英雄扱いされることになった。
vol3.へ続く