(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.019_作戦
何なんだ!?
目を覚ますとオレは元の世界に戻っていた。
そして、手には寝落ちする時に握っていた真木さんお手製のクッキーが・・・
なぜかクッキーも一緒に元の世界に来てしまったのか!?
まったく訳が分からない。
分かったことと言えば、転生した先の世界で眠りにつくと、こちらの世界に戻ってくること。
ただし、必ずしも毎回の睡眠でこちらの世界に戻ってくるわけではない、ということだ。
偶発的に元の世界に戻ってきているのか、それとも何か規則性があるのか・・・?
オレの頭の中をクエスチョンマークがグルグルと回り続ける。
「賢者さーん、起きたようだね。」
ふと顔を上げると、そこには棺桶に入ったまま険しい表情をしたオレを見下ろす魔法使いの姿があった。
そうだった・・・すっかり忘れていたが、オレは赤い目をした老婆との闘いで死んで教会送りになったのだ。
「あぁ・・・ちょっと考え事をしててね。もう大丈夫だ。」
オレは真木さんお手製のクッキーをローブのポケットに入れ、棺桶から出る。
ちょうど戦士や勇者も目が覚めた様子で、一同介して今後の作戦を立てることにした。
「くっそー、あの婆さん、まさか即死魔法の使い手だったとはなぁ・・・俺としたことが油断したぜ・・・」
勇者が悔しそうに話す。まぁ、ほぼ無警戒で接触していったからなぁ・・・勇者らしいと言えば、勇者らしい。
「赤い目をした老婆の噂、私聞いたことあります。たしか魔王直属の僕(しもべ)の1人で、レーヤ。強力な闇魔法を使い、次々とモンスターを生み出したり、数々の冒険者を死に追いやったとか・・・」
魔法使いの話を聞く限り、もうドンピシャでそのレーヤに遭遇したってことじゃないか。
なんで、こんな序盤レベルの狩場に潜んでいるだよ!?もっと後半で出てくるのが王道だろうが・・・!!!
ハァハァ・・・
心の中で思いっきりツッコミを入れたせいで、つい息が上がってしまった。
とにもかくにも、そんな魔王級のモンスターをこのパーティで討伐できるわけもなく、いったんここは狩場を変えるべきだな。
オレがそう思っていると、勇者がポンっと手を叩いて大声で話し出した。
「めちゃラッキーじゃん!!!レーヤを討伐して一気に名を上げちゃおうぜ!!」
ファッ!?
オレは耳を疑ったが、数秒後に納得していた。
そうだ、オレたちが共に冒険するこの勇者は、自分のレベルが何だろうが、常に大物を狙う上昇志向タイプのキャラだったんだ・・・
こうなってしまっては、いくら反対しても無駄なので説得を諦め、オレは討伐できる可能性があるのかを検討することにした。
「勇者さん、レーヤに再び挑むのは分かった。だが、むやみに挑んでも同じ結果になるだけだ。何か良い作戦はあるのか?」
ダメ元でオレは勇者に聞いてみる。
「もちろん、ある!!」
ファッ!?あるんかい!?
「魔法使いさんの話を聞いて、俺も死んだ婆さんから聞いた話を思い出した。レーヤは闇魔法の使い手で、並大抵のことでは歯も立たないらしいが、光属性の攻撃には弱いらしい。俺が一撃必殺の光の大技を叩き込めれば、勝算はある!!」
ほぉ・・・ちゃんとレーヤの特性を踏まえた上での作戦か。
バカっぽく見えて意外に考えているのがオレたちの勇者でもある。
あとは、どうやって勇者が大技を繰り出すまでの時間稼ぎをするかだな。
レーヤの動きを少しでも長く止めることができれば良いのだが。
勇者、戦士、魔法使い、そして賢者であるオレら4人組パーティは、無謀にもレーヤ討伐に向けて作戦会議を夜通しで話し合った。
チュンチュンチュン・・・
鳥の鳴き声・・・朝か・・・
どうやらオレは机の上に突っ伏して寝てしまったらしい。ふと横を見ると、勇者、戦士、魔法使いも座ったまま寝ている。
ふっ・・・なんか冒険してるって感じだな。
オレは次第にこのパーティに愛着を感じ始めていた。
収入のために賢者という職業につき、淡々と冒険していたこれまでとは違う感情だ。
この勇者のノリのせいかな?それとも・・・
「おいっ、みんな起きろ!レーヤ討伐に行くぞ!」
オレはみんなを起こしてまわる。
「ふぇっ・・・賢者さんもう起きたの・・・?私まだ眠たいのに・・・」
「俺・・・あと二時間寝るから後で起こして・・・」
「賢者さん、討伐は明日にしよ・・・死んだ婆さんも夢の中に出てきて明日でいいよって・・・むにゃむにゃ・・・」
魔法使い、戦士、勇者がそれぞれ無邪気な発言をする。やれやれ・・・自由なヤツら。
そんなこんなでグダグダした結果、予定より2時間遅れて町を出発することになったオレら。
不思議とオレはワクワクしていた。
vol20.へ続く