(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.029_歓迎
真木さん、神宮寺さん(ミカエル)、そしてオレの三人は以前行ったことのある焼き鳥屋に入った。
相変わらずの盛況っぷりだが、なんとか三人で座れるテーブルを確保できた。
・・・冷静に考えると、オレは今、邪神ティアマトと天使ミカエルという高次元の存在と飯を食いにきているということか。
誰も信じちゃくれないだろうなぁ。
「神宮寺さんはビール大丈夫?芸満(ゲイマン)先輩はビールでいいですよね?」
テキパキと真木さんが段取りを進めてくれる。
オレにとっては真木さんは邪神ティアマトではなく、安心・信頼の真木さんである。
「あ・・・はい、ビ、ビールというものを飲んだことはないのですが、あたしはそれで大丈夫です!」
「オレもビールで問題無しですっ!」
真木さんは「了解」と敬礼ポーズをし、店員さんを捕まえてビール3杯と串盛り合わせなどを頼んでくれた。
ってか、神宮寺さん(ミカエル)もビール知らないんかい!
こちらの世界アースに行き来可能とは言っていたが、アースの文化や風習などを熟知しているというわけではないんだな。
そんな天使(ミカエル)にオレは親近感すら抱いた。
カチャカチャ、ドンっ!
おっ、きたきた。オレたちは早速、黄金色のシュワシュワした最高に旨い飲み物ビールをいただく。
「かんぱーい!!神宮寺さん、ようこそー!」
真木さんとオレは神宮寺さんの持つビールジョッキにゴツンと自分のジョッキを当て、一気にビールを喉に流し込む。
「くっ、くはぁぁー!やっぱり仕事終わりのビールはたまらんねー!」
オレはこちらの世界アースに来て、すっかりビール党になっていた。それほどまでに、ビールという飲み物は悪魔的に旨いのである。
「ほんっと、最高ですね!神宮寺さんはどう?初めてのビールはお口に合ったかな?」
真木さんが神宮寺さんを気にかけている。
コクコクコク・・・
神宮寺さん(ミカエル)は、まるでマグカップに注いだホットミルクを飲むように、ビールジョッキを両手で抱えてコクコクと飲んでいる。
な、なんか変わった飲み方だけど、結構一気に飲んでるな・・・
ゴンっ!
神宮寺さん(ミカエル)は、結局ビールを一気に飲み干し、ジョッキをテーブルに置いた。
「・・・」
「な、なかなかイイ飲みっぷりだね、神宮寺さん。」
真木さんが神宮寺さん(ミカエル)に声をかけるも、彼女は黙ったままだ。なんか目が座ってるけど、だ、大丈夫か?
「・・・ヒック、真木先輩・・・」
神宮寺さん(ミカエル)が真木さんの方をジトリと見つめる。
ま、まさか聖槍(ホーリーランス)とか言い出して、攻撃したりしないだろうな・・・
オレが心配して声をかけようとすると、彼女の目から涙が頬を伝った。
「えっ・・・!?」
真木さんが神宮寺さん(ミカエル)の涙を見てビックリする。
オレもビックリだ。
涙を流しながら、彼女は涙ながらに口を開いた。
「ヒック・・・あたし、こんな風に誰かに歓迎してもらったこと初めてで・・・ヒック・・・本当はこっちに来るのイヤだなぁ・・・って思ってたんだけど、来てよかったです・・・」
「えっ、こっちって・・・東京に出てくるのがイヤだってことだったのかな?上京したてだと寂しいもんね・・・」
いや真木さん、ちょっと違うんだよね。
たぶん、オレたちが元々いた世界ケプラから、こっちの世界アースに来たくなかったということだろう。
神の命令だもん。イヤでもそりゃあ断れないさ。
「実は私も田舎は北海道だから、大学を卒業して初めて東京に出てきたときは本当に寂しかったんだ。だからね、なんとなく神宮寺さんの気持ちは分かるよ。」
「ヒック・・・真木先輩、ありがとうございますぅ~。」
何が「ありがとうございますぅ~」なのか。
この2人の話は噛み合っていないのだが、なんとなく会話が成立しているのでオレとしては良しとしておこう。
その後、会社の話やたわいもない世間話をして、すっかり神宮寺さん(ミカエル)と真木さんは打ち解けたようだ。よかったよかった。
オレもすっかり安心し、ゆっくりビールが飲めるってもんだ。
その後、えんもたけなわに盛り上がり、オレたちは店を出た。支払いは全額オレ。
いやぁ、35歳のオッサンだけど、こうやって若いコ2人と飲めるなんて幸せもんだわ。
・・・まぁ、天使と邪神だけど。
そんなことを思いながら、3人で歩いていると前方からいかにも柄の悪そうなヤンキー達がニヤニヤしながらこちらに近づいてきた。
「よぉ~、かわいい子連れて楽しそうじゃーん!俺たちも交ぜてよぉ~!うひゃひゃひゃ!!!」
やれやれ、面倒くさいのに絡まれてなぁ・・・適当にあしらいますかね。
そんなことを考えながら、オレが一歩前に出ようとした瞬間、神宮寺さん(ミカエル)がずいずいっと前に出てきた。
「お兄さん・・・悪いこと言わないからぁ・・・とっとと消えなさい。」
ちょ!?神宮寺さん(ミカエル)!?
「んだぁ~金髪の姉ちゃんよぉ~、あんまり舐めてっとイロイロ痛い目あわしちゃうよぉぉぉ~ぐへへへ・・・」
そう言いながら、不良のリーダー格っぽい奴が、彼女に触れようと手を伸ばしてきた。
マズイ!助けなきゃ!
オレが静止しようと間に入ろうとした瞬間、神宮寺さん(ミカエル)が小声で呪文を唱えたのをオレはハッキリと聞き取った。
「灼熱天光破(バーニングブラスト)」
次の瞬間、ボンッという破裂音と共に、神宮寺さん(ミカエル)に触れようとした不良が地面に転がり悲鳴を上げていた。
「いってぇぇえぇええええ!!!!!!!ス、スマホが急に熱くなって破裂しやがったぁぁぁ!!!!!!」
地面に転がる不良を上から冷たい目で見下した後、真木さんとオレの方に振り返った神宮寺さん(ミカエル)は「今のうちに逃げましょう!!」と言い、動揺している不良集団を置いて駅の方まで逃げた。
「ふえぇぇん・・・こ、こわかったですぅ・・・なんだかよく分からなかったけど、逃げれてよかったですぅ~!」
「そうだね、神宮寺さん(ミカエル)。ケガとかしてない?なんだかよく分からなかったけど、逃げれてよかったね!」
真木さんが神宮寺さん(ミカエル)を心配している。
大丈夫だよ、真木さん。不良を葬ったのは彼女だからね。
「はい、怖かったけど大丈夫ですぅ。」
よく言うぜ。
そんなこんなで、オレは神宮寺さん(ミカエル)もコンピュータに対して魔法を放てることを認識した。
オレのような賢者魔法とは違い、神宮寺さん(ミカエル)の魔法は強烈な攻撃魔法だということだ。
たしか「灼熱天光破(バーニングブラスト)」って、神話で天使ミカエルが島1つ吹き飛ばしたと記されている伝説の魔法だったような・・・
その後、オレたちは改めて3人で駅まで歩き、これにて解散ということになった。
「じゃあ、今日はお疲れ様でした!また明日!」
真木さんは改札口の方に向かって歩いていく。
さて、オレは会社の近くが自宅だから歩いて帰るかな。
「神宮寺さんは、こっちの世界の家はどこにあるんだい?」
オレは別れ際に神宮寺さん(ミカエル)に尋ねる。
「ないよぉ~。芸満(ゲイマン)先輩ちに泊まる♪」
なっ!?
マジですかぁぁぁぁ!!!!
まさかの展開にオレのほろ酔い気分は一発で吹き飛んだのだった。
vol30.へ続く