ファインダーワールド https://finder-world.com 純粋なカメラやレンズの話題だけでなく、ファインダー越しに見える世界(=ファインダーワールド)を幅広くお届けします♪ Thu, 22 Oct 2020 03:20:53 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.5.14 (小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.036_天界 https://finder-world.com/2020/10/more-troublesome-than-devil-vol036/ Thu, 22 Oct 2020 03:04:00 +0000 https://finder-world.com/?p=5062 目を覚ますと、そこは教会ではなかった。

どこまでも続く青い空。

真っ白な石柱に支えられたゴシック建築のような建物。

色鮮やかな花や木々がそよめき、鳥や川の音が穏やかに聞こえてくる・・・

あぁ・・・天国が本当に存在するなら、きっとこんなところなんだろうなぁ。

オレはぼんやりとした頭の中でそんなことを思いながら、ふと顔を横に向けた。

ふぁ!?

眼前には神宮寺さん・・・もとい、天使ミカエルの寝顔が!

ミカエルの寝息がオレの顔に微かにかかる。あぁ・・・いいニオイ・・・

オレが悦に浸っていると、ミカエルが目を覚ました。

「ふぁぁぁ、よく寝たぁぁ。ん?いつまでアタシの横に寝てるんだよぉ!」

ズドーン!!!!!!

「ひゃっ!や、やっちゃった・・・!芸満(ゲイマン)先輩大丈夫・・・?」

10mくらい吹き飛ばさたオレは辛うじて生きていた・・・吹き飛ばされた先がフワフワの草むらで助かったぜ。

それにしても・・・いててて・・・さすがは天使ミカエルの一撃・・・

生き返った矢先に即死するところだった。

ミカエルはオレが生きていることを確認し、ホッとしたようだ。

オレは頭をフラフラ立ち上がりがてら、魔法でHPを回復させる。これ賢者の特権ね。

「神宮寺さん・・・いや、こちらの世界ではミカエルさんか。ここは・・・どこなんだ?」

気を取り直してオレはミカエルに質問する。

「えと、天国だよ。」

ふぁ!?

ててててててててて・・・天国ぅっ!?

ほ、本当に存在していたとは・・・そして、生きている時にこの目で拝める日が来るとは・・・

「まぁ、アナタたち人間が想像している天国は「死後の世界」という意味なんだろうけど、ここは実在する場所だよ。正確には人間が住んでいる地上世界に対して、ここは天界と呼ばれているけどね。」

「な、なるほど。天界というところなんだね。ところで、大賢者になるためにミッションをこなす必要があるんだけど、ここから地上世界にはどうやって戻ればいいんだ?」

そう、オレがこちらの世界に戻ってきた理由は「大賢者になる」こと。

大賢者になるためには、「大賢者へのステップノート」に書かれている下記の条件を満たすことが必須だ。

大賢者になる条件達成具合
賢者レベル55以上40/55
魔王もしくは同等のモンスター討伐の実績0
大賢者転職クエストのクリア9/10

あ、あれ・・・前見たときより結構進んでいる。ミカエルも「大賢者へのステップノート」の進捗状況を見て頷く。

「なかなかイイ感じじゃない?芸満(ゲイマン)先輩。魔王四天王を討伐したり、アースの世界で活躍したことで自然とミッションクリアしているみたいだねぇ♪」

「それと、地上世界に戻る方法はアタシが案内するから大丈夫だよ♪」

「な、なるほど。どのミッションがオレの過去の行動と紐づいているのか分からんが、とにかくオレがやってきたことはムダではなかったようだね。」

俄然、大賢者への道筋が見えてきたところで、残りの条件はレベルを55まで上げる。魔王級のモンスターを討伐する。そして最後のクエストは・・・

神の存在をその身に感ずるべし

「大賢者へのステップノート」より

「・・・・・?」

なんだ、この曖昧なクエストは?

オレがクエストの一文を見ながらフリーズしていると、横からミカエルがそれを覗いてきた。

「ほほう、いいクエストだねぇ♪大賢者になるためには、神の存在を身近に感じなきゃいけないんだねぇ♪」

ミカエルの言っている意味がサッパリ分からないが、オレはこの後、否が応でも理解することになる。

「じゃ、神様に会いにいこう♪」

そう言ってミカエルは丘の上にそびえる神殿を指さした。

vol37.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.035_疑問 https://finder-world.com/2020/10/more-troublesome-than-devil-vol035/ Mon, 19 Oct 2020 03:08:00 +0000 https://finder-world.com/?p=5049 「さっきのオンラインゲームで現れた謎のユーザ・・・あれ、ティアマトだよ。」

仁王立ちでオレを待ち構えていた神宮寺さん(ミカエル)は、開口一番とんでもない事実をオレに伝えてきた。

唐突すぎて頭の中に「?」がグルグルと回る・・・

「どうやったのか分からないけど、ティアマトはオンラインゲーム上に入り込み、saeki-kの動きを封じ、オンラインゲーム上のキャラとしてsaeki-kをPKした。一瞬のことだったが、その時に真木先輩から明らかに邪神の魔力が噴き出ていたんだよ。」

マジか・・・俄かに信じがたいが、神宮寺さん(ミカエル)が嘘をついているようにも見えない。

本当のことだと受け止めるべきだろう。

「ティアマトがオンラインゲーム上に影響を及ぼしたということは、真木さんの心が負の方向へ変化したということかな?」

オレが尋ねるも、神宮寺さん(ミカエル)はこわばった表情のまま、頭を横に振る。

「それが謎なんだよねぇ。真木先輩の心に不安感が生じたのは確かだけど微々たるものだったから、それが原因でティアマトの影響が強まったとは思えない。そう、あれはまるで・・・ティアマトがPKされかけたアタシを助けるために登場したように見えた。」

神宮寺さん(ミカエル)が感じていることはオレにも当てはまる。

オレは以前、魔王四天王レーヤに挑んだがパーティは全滅寸前のところまで追い込まれた。

そんな時にオレの身体を媒介して、レーヤを倒したのは他ならぬティアマトだった。

“邪神”とまで言われ、神話の時代から現在に至るまで、人々に恐れられていたティアマト。

だが、「彼女」が取る行動は邪神の異名とは程遠い。いったいどういうことなんだ・・・

「う~ん、こればっかりは今考えても答えは出そうにないわね・・・とりあえず、一度ケプラに戻りましょ。」

そうだった、オレはこれからのクラウド化とオンラインゲームのリニューアルが完了するまでの様々な困難に対応できるように、大賢者を目指すんだった。

「そうだったね、ケプラに戻るにはとりあえず、寝ればいいんだよね?」

神宮寺さん(ミカエル)は頷く。

「本来はこんなことしないんだけど、早いところ芸満(ゲイマン)先輩に大賢者になってもらいたいから、あたしも手伝ってあげる♪」

「ふぁ!?え・・・っと、ってことはケプラに戻ったら神宮寺さんも一緒に冒険するってこと?」

「そだよ~、こんなこと滅多にないんだから感謝してよねぇ~♪」

人生とは分からないものだ・・・

どこにでもいる平凡な賢者だったオレが気が付いたら天使と一緒に冒険することになるとは・・・

そして、憧れの存在でしかなかった「大賢者」を目指すことになるとは・・・

「わ・・・分かったよ。神宮寺さんが一緒なら百人力だ。」

「オッケー♪じゃあ、話がまとまったところで寝ましょ♪」

そういうと、神宮寺さん(ミカエル)はオレの布団にモゾモゾと入ってきた。

ふぁ!?

なななななな・・・・何をしているんだ神宮寺さんっ!?

「もうっ!変なこと考えないでよね!こうやって一緒に寝ておかないと、ケプラに戻ったときにバラバラの場所で転移しちゃうの!また、探すの面倒でしょ!」

な、なるほど。そういう仕様なのね。

神様・・・こんなステキ仕様の転移術を作ってくださり感謝します。

オレは心の中で神に感謝しつつ、隣にいる神宮寺さんの色っぽい香りをすーはーすーはしながら眠りについた。

vol36.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.034_謎者 https://finder-world.com/2020/10/more-troublesome-than-devil-vol034/ Fri, 02 Oct 2020 05:01:00 +0000 https://finder-world.com/?p=5031 神宮寺さん(ミカエル)は真剣な表情でオレを見つめ、彼女が考えた作戦を伝えてきた。

「佐伯が操作しているsaeki-kは真木先輩が操るmakirinによって、かなりHPを削られている状態よ。あたしが操作しているキャラでも、最大出力で攻撃すれば倒せるはず。」

「だが、どうやってsaeki-kを・・・」

オレが神宮寺さん(ミカエル)に尋ねると、向こうの席でmakirinを操作していた真木さんがこちらにやってきて神宮寺さん(ミカエル)の作戦に乗ってきた。

「神宮寺さん、私のmakirinを盾にしてsaeki-kの攻撃を受け止めるわ。その隙に攻撃してもらうしかないかな。」

なるほど。でも、makirinもひん死だけど・・・

「もちろん、私はPKされてしまうけどゲーム内の話だしね。それよりも、神宮寺さん・・・saeki-kを倒すってことはあなたのmichaelがPKになってしまうのよ?」

真木さんは、自身のキャラが殺されることよりも、神宮寺さん(ミカエル)の操作キャラがPK扱いとなってしまうことを心配していた。

「真木先輩、あたしのこのキャラはまた別キャラで作り直すからイイんです。最近あまりプレイしていませんでしたし。それよりも、あたしはsaeki-kをこの手で葬りたいんです・・・!」

言っていることが穏やかではないが、神宮寺さんはPKになってでも佐伯に天誅を下したいと言った表情だ。さすがは天使。

神宮寺さん(ミカエル)の決意に満ちた表情を見て、真木さんも作戦決行の決意ができたようだ。

「分かったわ、神宮寺さん。やりましょう。・・・それと、一緒に戦ってくれてありがとうね。」

「はいっ!じゃあ、いきましょう真木先輩!」

真木さんと神宮寺さんは自席のディスプレイを再度睨み、佐伯・・・もといsaeki-kとの決戦に挑む。

真木さんの操るmakirinは攻撃する構えを見せながら、saeki-kに突撃する。

『ぶぁぁぁぁか!!!何度も貴様の攻撃なんぞ受けるかよぉぉぉぉぉ!!!!!』

saeki-kは素早くmakirinの後ろに回り、最大出力で攻撃してきた。

ずごぉぉぉぉぉぉん・・・・

強烈な閃光が画面内を覆い、クレーターのできた地面にmakirinが倒れていた。

『っしゃあぁぁぁぁぁぁ!!!神聖装備キャラ1匹討伐完了ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!乙乙乙っ!乙カレーっス!!』

悦に浸りキマっちゃたsaeki-kの後ろには、静かに最大出力の攻撃準備を完了させたmichaelが槍を構えていた。

『なっ!?雑魚がぁぁぁ!?いつの間にぃぃぃぃぃ!?』

ズオッ!!!!!

saeki-kは攻撃を避ける隙もなく、michaelの最大出力で放った槍がsaeki-kを貫いた。

やった!!!佐伯・・・もといsaeki-kを倒したぞ!

・・・・・・

・・・・・・

しかし、saeki-kは倒れておらず、michaelへの攻撃態勢へと入っていた。

なんとHPが1だけ残っているじゃないか!なんというしぶとさ・・・

『ふぃぃぃ・・・かっ・・・かかかかっ!!!運が無かったねぇ!私を倒す作戦だったみたいだが、雑魚った攻撃のおかげで生き延びたぜぇぇぇ!!!』

佐伯から勘に触るメッセージがゲーム内チャットで送られてくる。くそっ・・・万事休すか・・・

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

あ、あれ?saeki-kの振りかぶった剣がそのまま振り下ろされずに固まっている?

佐伯も困惑しているようで、チャットでこちらにメッセージを飛ばしてくる。

『こらぁぁ、システム障害じゃねぇだろうなぁ!?私の攻撃ができずに固まっているぞぉぉぉ!!こらぁぁぁ!!!』

うるさい野郎だ。だが、他のユーザは動いているように見えるから、saeki-kだけが固まっているように見える。

そしてsaeki-kのところへ、[%?Ajf\*,m]と読み方不明の謎ユーザがやってきて、持っていたナイフで一突き。

saeki-kを倒した。

[%?Ajf\*,m]という名前のキャラはsaeki-kを倒した後、すぐにゲームからログアウトしたようで画面から姿を消した。

真木さん、神宮寺さん(ミカエル)、オレは何が起きたのかすぐに理解できず、唖然とその光景を見ていたのだった。

こうして、佐伯の暴走を抑え、ユーザは安心してプレイを再開しに再びゲーム内に集まってきた。

それどころか、この件はSNSでちょっとした話題になり、その日にゲームにアクセスしてきたユーザは通常よりも多いくらいだった。

その日の夕方、仕事もひと段落し、オレたちは佐伯の件を振り返っていた。

「あの[%?Ajf\*,m]ってユーザは誰だったんだろうね・・・?おかげで助かったけど、変な名前だったし、すぐにログアウトしちゃったみたいだから少し気味が悪いね・・・」

真木さんが呟く。たしかに、明らかにsaeki-kをPKするためだけに現れたような雰囲気だったな。

ふと、神宮寺さん(ミカエル)を見ると、彼女は険しい表情のままだ。

さっきからずっとこんな感じだが、腹でも空いたのか?

結局、今日は佐伯の件もあり、会議でブラッシュアップしたリニューアル案の開発費用は翌日対応として、それぞれ帰宅した。

ちなみに、神宮寺さん(ミカエル)はオレの家に居候しているので、時間差で帰宅する。

オレは遅れて会社を出て、適当に時間をつぶして自宅に帰った。

ドアを開けると、神宮寺さん(ミカエル)が仁王立ちしてオレの帰りを待っていた。な、なんだ・・・!?

開口一番、神宮寺さん(ミカエル)は思いもよらぬ名前を口にした。

[邪神ティアマト]と。

vol35.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.033_PK https://finder-world.com/2020/10/more-troublesome-than-devil-vol033/ Fri, 02 Oct 2020 04:45:00 +0000 https://finder-world.com/?p=5014 オンラインゲームにおいて、特にMMOやMOと呼ばれるジャンルでは、(ほぼ一方的に)殺害するプレイヤーのことを「PK(Player Killer)」あるいは「PK(Player Kill)する」キャラと呼ばれるらしい。

以前、真木さんに教えてもらったので知識だけはあったのだが、まさか鈴木グローバルテクノロジーシステム社をクビになった佐伯がPK[saeki-k]として現れるとは思わなんだ・・・

[saeki-k]はオンラインゲームの機能であるチャットを通して、こちらに話しかけてきた。

『やぁ。ファインダーシステム社のクソ諸君。元気にクソでもしているかい?』

な、なんだこいつ・・・元々イカレタ野郎だとは思っていたが、会社をクビになって本性むき出しで挑発してきたな・・・

『お前らのせいで、私の人生はお先真っ暗状態だよ。ムカつくからお前らが一生懸命運営しているこのゲームでPKしまくって、ユーザ離れさせてやるかんなぁぁぁぁ!!!ごるぁぁぁぁぁ!!!!』

逆恨みも甚だしい。とんでもない奴に因縁をつけられてしまったとため息が出る。

しかし、この状況をなんとかしないと本当にユーザが離れていってしまう。

なんとかして[saeki-k]を止めないと。

「真木さん、運営者の権限をつかって強制的に佐伯を退場させられないのかな?」

オレは真木さんに尋ねるも、真木さんはクビを横に振る。

「それが・・・すでに試みようとしているのですが、アクセス権がないようで、退場させられないんです・・・おそらくですが、これも佐伯元課長がコッソリと仕込んだ機能なのだと思います・・・」

くそっ・・・バグだけではなく、こんな面倒キャラまで仕込んでいたとは・・・みんなで楽しむはずのオンラインゲームを何だったと思っているんだ・・・

「佐伯課長は・・・いえ、saeki-kは、私のキャラで対処します!」

真木さんが突然、並々ならぬ決意が込められた声でオンラインゲーム画面を操作し始めた。

真木さんのディスプレイ上には[makirin]と表示されたキャラが立っていた。

「私のキャラもゲーム内だとかなり強い方なので、私がsaeki-kを抑えてみせます!」

真木さんはそういうと、[makirin]と書かれたキャラを[saeki-k]が暴れまわる場所まで移動させ、攻撃をしかけた。

『ちぃ!まさか神聖装備の最上位キャラを育てているとはな・・・いいだろう、相手にとって不足はありませんねぇ。』

佐伯がチャットで応答してくる。

これまで無傷だった[saeki-k]は[makirin]の攻撃でダメージを受けている!!

オレがディスプレイを凝視してプレイしている真木さんを応援していると、神宮寺さん(ミカエル)がオレに小声で話しかけてきた。

「芸満(ゲイマン)先輩・・・まずいよ。ゲーム上とはいえ、真木さんが他のプレイヤーを殺すのは邪神の力を強めることになってしまう。」

なにぃ!?どんな設定だよ!?

しかも、そんなことを言って佐伯を放置していは。それこそヤツの思うがままだ。

「分かっている。だから、あたしが真木さん・・・もといmakirinに代わって、saeki-kを倒す!」

そういうと、神宮寺さん(ミカエル)は別のPCからオンラインゲームにログインした。いつの間にキャラクターを作ったんだ・・・とツッコミたかったが、そのキャラクターは[michael]となっていた。

「さぁて、ではPK征伐に行きますかね。」

神宮寺さん(ミカエル)はぺろりと自身の唇を舐めて、[michael]を[makirin]と[saeki-k]が戦う決戦の場へと移動させた。

その頃、[makirin]と[saeki-k]の戦いはまさに最高潮の場面を迎えようとしていた。

互いに半分を切るほどのHPになったところで、[makirin]の放つ神聖攻撃によって、[saeki-k]を窮地に追い込んだのだ。

『ちぃぃぃいっ!!!この私がここまで追いつめられるとは・・・』

佐伯がチャットで悔しさを滲ませる。

真木さんは、佐伯を諭そうとチャットで応じる。

『佐伯課長・・・もうこんなことは止めてください。せっかくこのゲームを楽しんでいるユーザさんを妨害したところで、誰も幸せになりません。』

しばらくの沈黙の後、佐伯がチャットで応答してきた。

『くくくっ・・・幸せとは片腹痛い。私は貴様らが困り苦しむ様が見れればそれで充分なんだよぉぉぉ?』

イカレテる・・・

『ときに、makirinとやら。私をPKするのは良いが、その代償は大きいぞ。せっかく育てたそのキャラも結局のところPKとして烙印を押されることになるがよいのですかぁぁ?』

「くっ・・・」

ディスプレイを見る真木さんの顔が曇る。

どうやらPKすることは、このゲームにとっては殺人者と同じような扱いを受けることになるようだ。

PKしたという事実は永久に残り、makirinはこのゲームに存在する限り、ずっとPK扱いとなってしまうらしい。

真木さんの一瞬の躊躇いによってmakirinの攻撃の手が止んでしまった。

その瞬間、saeki-kはすかさず切れ味するどい攻撃で逆にmakirinを窮地に追い込んだ。

「くっ、しまった。まずい・・・!!」

真木さんがディスプレイを凝視しながら苦悶の表情を浮かべる。

『うひゃははははは!!!甘いっ!!ゲロあまだよぉぉぉ!!PKに躊躇するくらいで私に挑もうなど100万年はやぁぁぁい!!!』

佐伯の喜々とした表情が目に受かぶようなメッセージをチャットで送ってくる。鬱陶しいことこの上ない・・・

だが、まずいぞ。このままでは真木さんがやられてしまう。

ガシンッ!!!!

[saeki-k]が[makirin]に仕掛けたトドメの一撃を別のキャラが間一髪で受け止めた。

「ふぅ・・・なんとか間に合いました・・・大丈夫ですか真木先輩・・・もといmakirin?」

神宮寺さん(ミカエル)が操るキャラ[michael]が辛うじて間に合ったのだ。彼女はディスプレイを凝視しながら独り言を喋っている。

だが、神聖装備もない[michael]はこの一撃でひん死状態だ。まずい、これだとmakirin共々、saeki-kにやられてしまう。

「じ、神宮寺さん(ミカエル)・・・あと一発で確実に死んじゃいそうだけど、大丈夫か?」

俺がディスプレイを凝視する神宮寺さん(ミカエル)に話しかけると、彼女は振り返り、オレの目を真っ直ぐに見つめた。

vol34.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.032_条件 https://finder-world.com/2020/09/more-troublesome-than-devil-vol032/ Fri, 25 Sep 2020 05:29:00 +0000 https://finder-world.com/?p=5000 大賢者・・・

そういえば、勇者たちと約束したんだったな。「オレは大賢者になる」と。

あの時は仕方なく大賢者を目指すことにしたが、今ハッキリとそれになる目的を見出すことになるとは。

オンラインゲームのリニューアルが完了するまでの1年半。

これからシステムに起きるであろう様々な苦難の道を支援するために、オレは今より高度な魔法が使えるように成長する必要がある。

「神宮寺さん、ちょっといいかな?」

オレは神宮寺さん(ミカエル)に、大賢者になることを相談するために彼女を休憩スペースに呼び出した。

・・・・・・

・・・・・・

「なるほどねぇ、たしかにユーザ数を減らさずにリニューアルを完遂させようと思うと、まさに薄氷の上を進むがごとく負荷や障害との闘いになりそうだもんねぇ。」

「あたしは、芸満(ゲイマン)先輩が大賢者になるのは大いに賛成だよぉ~。あたし自身は攻撃主体の魔法しか使えないから、強力な支援魔法が使えるようになると、なにより、真木先輩の助けになりそうだからねぇ。」

「そうか、賛成してくれるならよかった。んで、大賢者になるにはいくつかミッションを達成する必要があるんだが、ケプラに戻ることはできるか?」

オレはこちらの世界アースにいる時に、睡眠をとることでケプラに戻ったことはあったが、戻る時と戻らない時があったので正直なところ、自由意志で転移する方法は分かっていないのだ。

「ん・・・戻れるには戻れるんだけど、前も言ったとおり転移の力を行使できるのは神だけなの。」

「なので、真木先輩の不安や悩みが薄れている時・・・つまり、邪神ティアマトの力が抑えられていると判断できた時に、あなたが寝た状態になるとケプラに戻してもらえるはずだよ。」

なるほど、それで戻れるときと戻れないときがあったという訳か。

オレには真木さんの心の内を知る術はないが、おそらく真木さんの中で安心できている時にオレはケプラに戻ってきていたんだろうな。

「了解、神宮寺さんの言う通りだとすれば、真木さんの不安や悩みを解消できるようにオレたちが動ければ、ケプラに戻れるってことだね。」

神宮寺さん(ミカエル)は、「そのとおり」とばかりにニコリと笑った。

ということは、リニューアル案の内部会議も荒れずに終わったので、今日の真木さんの感じだとケプラに戻れそうかな。

オレが算段していると、真木さんが休憩スペースに走り込んできた。

「芸満(ゲイマン)先輩!!大変です。さ、佐伯課長と思われる人物がオンラインゲームの中で暴れています!」

ファ!?

佐伯課長といえば、鈴木グローバルテクノロジーシステム社でこのオンラインゲームを企画していた元・担当課長だ。

やつはワザとバグを仕込み、うちの会社のせいにしてコスト削減させようとし、それをもみ消そうとしたことが上司の里中部長にバレてクビになったはず。

今度はオンラインゲームの中で暴れているって・・・どういうことだ?

真木さん、神宮寺さん(ミカエル)、オレはオフィススペースに走り、既に数名が集まっているPC前に行き、状況を確認した。

「こ・・・これは・・・」

オレはPCのディスプレイに映し出されたオンラインゲームの画面を見て、驚愕した。

そこには、「saeki-k」と書かれたキャラクターが次々と他のプレイヤーを殺害している光景が映し出されていた。

vol33.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.031_課題 https://finder-world.com/2020/09/more-troublesome-than-devil-vol031/ Thu, 24 Sep 2020 03:41:00 +0000 https://finder-world.com/?p=4986 翌日、オレと神宮寺さん(ミカエル)は時間差でファインダーシステム社に出社した。

別にやましいことは何もないのだが、変に噂が立っても面倒なのでね。

「真木さん、神宮寺さんおはよう。」

オレは神宮寺さんが出社後、20分くらい遅れてオフィススペースに入った。

おっ、真木さんと神宮寺さんは昨日の歓迎会の効果か、早速仕事の話をしているようだ。よかった、よかった。

「芸満(ゲイマン)先輩、おはようございます!早速なんですが10時から金内部長も含めて、オンラインゲームのリニューアル案を見てもらいたくて、お時間ください。」

「もちろん!10時から了解です。ところで、神宮寺さんには早速、お仕事の説明をしてるのかな?」

オレが真木さんに尋ねると、ディスプレイを凝視していた神宮寺さん(ミカエル)が、ガバっとこちらを向き、勢いよく答えてきた。

「はいっ、真木先輩に10時から会議で話し合うオンラインゲームの概要を教えてもらってました!」

おぉ!じ、神宮寺さん(ミカエル)ヤル気満々だな。

そういえば、俺もオンラインゲームのことなんて全く分かってないから概要くらい教えてもらおっかな。

「真木さん、その説明・・・オレも交ぜてくださいっ!」

真木さんは快く応じてくれ、神宮寺さん(ミカエル)とオレに丁寧にオンラインゲームの概要を教えてくれた。

神宮寺さん(ミカエル)は、「今更ぁ?」みたいな目でオレを見ている・・・すみません・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

10時になり、真木さん主催でオンラインゲームのリニューアルプランの検討会が開催された。

出席者には金内部長をはじめ、開発部のメンバーも数名集まっている。

基盤部からは真木さん、神宮寺さん(ミカエル)、そしてオレが出席した。

リニューアル案は真木さんが叩き台となる資料を作り、真木さんが考えるリニューアルプランをベースに全員で意見を出し合い、ブラッシュアップしていった。

いやぁ、よくよく考えたらこういう会議に出席するのは初めてだ。

意見が異なる各参加者を尊重しつつ、話題が発散しないように上手に会議をコーディネートする真木さんは流石といえる。

会議は約2時間ほどで終わり、開始当初に使った資料は参加者全員の意見をうまく取り入れ洗練されたものになっていた。

会議が終わり、金内部長が真木さんに声をかける。

「真木、今日の会議すげぇ良かったぞ。大抵、開発部も交えて会議をすると荒れたり、意見がまとまらないことが多いんだが、こんなに濃い議論を交わし合った実りある会議は久しぶりだったぜ!」

「わっ、ありがとうございます!私もとても良い会議になって安心してます。私だけだと気付かなかった案なども出てきて、すごく勉強になりました!」

「うんうん、真木の巧みなコーディネートのおかげだな。あとで俺の方から里中部長の予定を聞いておくから、また連絡するよ。」

金内部長は真木さんの肩をポンと叩き、奥の席へと戻っていった。

「ふぅ・・・ひとまず資料もまとまって良かったぁ・・・芸満(ゲイマン)先輩、神宮寺さんは何か気になるところなかったですか?」

自席に戻り、紅茶のペットボトルを飲みながら、真木さんはオレと神宮寺さん(ミカエル)に質問してきた。

何か気になることでもあるのだろうか?オレは特にないけど。

「あの・・・ごめんなさい。ちょっとだけ気になる点が見つかったので聞いてもいいですかぁ?」

神宮寺さん(ミカエル)が恐る恐る、真木さんに質問をする。

「もちろん、神宮寺さんの気になったところ教えてほしいな。」

「えっと、さっきのリニューアル案のアイデア出しの中で出てきた移行スケジュールについて。」

「今のオンプレサーバたちからクラウドへの移行は最低でも半年、そこから今日整理したリニューアルプランまで反映させるとさらに1年で合計1年半のプロジェクトになる認識です。」

「その間は、今のサーバ構成のままユーザ数を極力減らさずに、うまくキャンペーン内容も打ちながら運営していかないと・・・つまり、リニューアルが完了した時にユーザが離れてしまっていることがないようにしなきゃいけないと思います。」

な、なるほど・・・さすがは天使・・・

知能も高いからか非常に確信を付いた指摘だ・・・

「神宮寺さん、そうなんだよね。実は私もそこが一番の課題だと思っている。実はこの前、キャンペーンを打ったんだけど、期待どおりのユーザ数が集まらなかったし、実際のところ少しずつユーザ離れが始まっているんだと思う。」

「なので、ここから約1年半の間で、なんとかユーザ離れを食い止められるかがリニューアル成功のカギだと思っているの。」

す、すごい。二人とも意見が一致した。

それはそうと、二人の言っていることは正論なのだが、実際に約1年半の間、極力ユーザ数を減らさないようにするには、定期的なキャンペーンを打ったり、ゲーム内容のアップデートをしていく必要がある。

だが、キャンペーンやアップデート直後は、この前のような一時的な負荷急増が発生するから、万が一にもサーバダウンさせてしまうと一気にユーザ離れに繋がるという諸刃の剣のような対策を続けていくことになるな。

以前、オレはサーバの処理能力を上げるために「五色乃衣(ペンタコーディング)」という魔法を使ったが、この魔法だけでは太刀打ちできないくらいの高負荷な状況が出てくるかもしれない・・・

無事にリニューアルまでに1年半を乗り切るには、オレがもっと成長する必要がある・・・

オレの脳裏には再び「大賢者」の文字が浮かび上がってきていた。

vol32.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.030_居候 https://finder-world.com/2020/09/more-troublesome-than-devil-vol030/ Mon, 21 Sep 2020 12:59:00 +0000 https://finder-world.com/?p=4958 「じ、神宮寺さんがオレんちに・・・!?」

オレはドギマギしながら再度、神宮寺さん(ミカエル)に確認する。

「そぉだよぉ、だってあたし帰るところないんだもん。さ、行きましょ♪家はどっち?」

オレは動揺しながらも自宅の方向を指さす。

その方向にむかって、神宮寺さん(ミカエル)はオレを引っ張りグイグイと歩いていく。

・・・・・・・

ガチャ・・・バタン。

つ、連れてきてしまった・・・うら若き新人の女子を・・・

もとい、天使ミカエルを・・・

「さて・・・」

神宮寺さん(ミカエル)がこちらに近づいてくる。

えっ、えっ・・・積極的すぎないかい神宮寺さん(ミカエル)・・・

「とりあえず、今日の様子だと大丈夫そうね。」

へっ・・・!?

オレは拍子抜けした顔で神宮寺さん(ミカエル)を見る。ま、そりゃそうか(涙)。

「邪神ティアマトの気配は確かに感じるけど、真木先輩の意識が侵食されている感じはしなかったわ。この調子で、先輩の精神が負の方向に向かないように気を付けていければ、大丈夫そう。」

「そうか、神宮寺さんがそう言うならオレも安心したよ。真木さんと初対面のときの神宮寺さんは緊迫感溢れてたからねぇ。」

神宮寺さんは可愛い頬っぺを膨らませて、もうっと言わんばかりの表情を見せる。

「あたしだって真木先輩を通してとは言え、こんなに近距離で邪神と相対することは初めてだから緊張するんだよぉー!」

「神宮寺さんは、邪神ティアマトと戦うのは初めてなの?」

「そうね・・・邪神とガチンコで戦ったのは神のみ。あたしが生み出されたのは神が邪神を滅ぼした後だからね。」

そうなんだ。そういえば、神話で天使ミカエルが登場するのは邪神が滅びた後の世界の話だったから本当だったんだな。

彼女は話を続ける。

「この前、あなたがケプラで顕現させた邪神は本当にヤツの雀の涙の一部にすぎないの。だからあたしの聖槍(ホーリーランス)でも退治できたけど、本物が出てきたら到底太刀打ちできる気がしないわ・・・」

途方もない次元の話なので、正直オレには彼女の話の真実味が伝わってこなかった。

天使ミカエルと邪神ティアマトの力の差なんて、蟻んこのような存在のオレからすると、どちらも果てしなくデカいのだから。

そうなのだ。オレは途方もなく次元の違う事態に身を投じてしまっているのだ。

オレはレベル32のただの賢者なのに、神話に出てくる神や邪神や天使のゴタゴタ話に知らぬ間に巻き込まれ、いつまにか重大な役割を担ってしまっている。

なぜオレなんだ・・・改めて考えると目まいすら起きる状況だな。

オレの心境を察してか、神宮寺さん(ミカエル)がオレの鼻の頭をツンっとしてきた。

「あはは、今、オレなんかで大丈夫かなぁって思ってたでしょう?大丈夫だよぉ~。芸満(ゲイマン)先輩に邪神をやっつけれるなんて思ってないからぁ♪」

オレは苦笑いする。軽いノリしてるけど、ちゃんと人を見てるんだよなぁこの子は。

「ま、でも芸満(ゲイマン)先輩のおかげで、事実ティアマトの覚醒が抑えられているのは本当。あたしはアナタを一目置いているよん♪」

そりゃあ、どうも。

「さーてと、あたしも疲れちゃったからシャワー借りるね!あ、ここから先はあたしのスペースだから絶対入るなよぉ!」

いや、ここオレんちなんだけど・・・

・・・・・・・・・

神宮寺さん(ミカエル)はシャワーを浴び終えて、部屋に戻ってくるやいなや、「女の子は色々とスペースが必要なんだぞっ!」と謎な論理展開を宣った後、オレは反論の暇すら与えらず家のスペースの2/3を神宮寺さん(ミカエル)に明け渡すことになったのだ。

はぁ、早く帰んねぇかなこの女・・・これから先が思いやられる。

そう思いながら、オレは眠りにつくのであった。

vol31.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.029_歓迎 https://finder-world.com/2020/09/more-troublesome-than-devil-vol029/ Fri, 18 Sep 2020 02:00:00 +0000 https://finder-world.com/?p=4946 真木さん、神宮寺さん(ミカエル)、そしてオレの三人は以前行ったことのある焼き鳥屋に入った。

相変わらずの盛況っぷりだが、なんとか三人で座れるテーブルを確保できた。

・・・冷静に考えると、オレは今、邪神ティアマトと天使ミカエルという高次元の存在と飯を食いにきているということか。

誰も信じちゃくれないだろうなぁ。

「神宮寺さんはビール大丈夫?芸満(ゲイマン)先輩はビールでいいですよね?」

テキパキと真木さんが段取りを進めてくれる。

オレにとっては真木さんは邪神ティアマトではなく、安心・信頼の真木さんである。

「あ・・・はい、ビ、ビールというものを飲んだことはないのですが、あたしはそれで大丈夫です!」

「オレもビールで問題無しですっ!」

真木さんは「了解」と敬礼ポーズをし、店員さんを捕まえてビール3杯と串盛り合わせなどを頼んでくれた。

ってか、神宮寺さん(ミカエル)もビール知らないんかい!

こちらの世界アースに行き来可能とは言っていたが、アースの文化や風習などを熟知しているというわけではないんだな。

そんな天使(ミカエル)にオレは親近感すら抱いた。

カチャカチャ、ドンっ!

おっ、きたきた。オレたちは早速、黄金色のシュワシュワした最高に旨い飲み物ビールをいただく。

「かんぱーい!!神宮寺さん、ようこそー!」

真木さんとオレは神宮寺さんの持つビールジョッキにゴツンと自分のジョッキを当て、一気にビールを喉に流し込む。

「くっ、くはぁぁー!やっぱり仕事終わりのビールはたまらんねー!」

オレはこちらの世界アースに来て、すっかりビール党になっていた。それほどまでに、ビールという飲み物は悪魔的に旨いのである。

「ほんっと、最高ですね!神宮寺さんはどう?初めてのビールはお口に合ったかな?」

真木さんが神宮寺さんを気にかけている。

コクコクコク・・・

神宮寺さん(ミカエル)は、まるでマグカップに注いだホットミルクを飲むように、ビールジョッキを両手で抱えてコクコクと飲んでいる。

な、なんか変わった飲み方だけど、結構一気に飲んでるな・・・

ゴンっ!

神宮寺さん(ミカエル)は、結局ビールを一気に飲み干し、ジョッキをテーブルに置いた。

「・・・」

「な、なかなかイイ飲みっぷりだね、神宮寺さん。」

真木さんが神宮寺さん(ミカエル)に声をかけるも、彼女は黙ったままだ。なんか目が座ってるけど、だ、大丈夫か?

「・・・ヒック、真木先輩・・・」

神宮寺さん(ミカエル)が真木さんの方をジトリと見つめる。

ま、まさか聖槍(ホーリーランス)とか言い出して、攻撃したりしないだろうな・・・

オレが心配して声をかけようとすると、彼女の目から涙が頬を伝った。

「えっ・・・!?」

真木さんが神宮寺さん(ミカエル)の涙を見てビックリする。

オレもビックリだ。

涙を流しながら、彼女は涙ながらに口を開いた。

「ヒック・・・あたし、こんな風に誰かに歓迎してもらったこと初めてで・・・ヒック・・・本当はこっちに来るのイヤだなぁ・・・って思ってたんだけど、来てよかったです・・・」

「えっ、こっちって・・・東京に出てくるのがイヤだってことだったのかな?上京したてだと寂しいもんね・・・」

いや真木さん、ちょっと違うんだよね。

たぶん、オレたちが元々いた世界ケプラから、こっちの世界アースに来たくなかったということだろう。

神の命令だもん。イヤでもそりゃあ断れないさ。

「実は私も田舎は北海道だから、大学を卒業して初めて東京に出てきたときは本当に寂しかったんだ。だからね、なんとなく神宮寺さんの気持ちは分かるよ。」

「ヒック・・・真木先輩、ありがとうございますぅ~。」

何が「ありがとうございますぅ~」なのか。

この2人の話は噛み合っていないのだが、なんとなく会話が成立しているのでオレとしては良しとしておこう。

その後、会社の話やたわいもない世間話をして、すっかり神宮寺さん(ミカエル)と真木さんは打ち解けたようだ。よかったよかった。

オレもすっかり安心し、ゆっくりビールが飲めるってもんだ。

その後、えんもたけなわに盛り上がり、オレたちは店を出た。支払いは全額オレ。

いやぁ、35歳のオッサンだけど、こうやって若いコ2人と飲めるなんて幸せもんだわ。

・・・まぁ、天使と邪神だけど。

そんなことを思いながら、3人で歩いていると前方からいかにも柄の悪そうなヤンキー達がニヤニヤしながらこちらに近づいてきた。

「よぉ~、かわいい子連れて楽しそうじゃーん!俺たちも交ぜてよぉ~!うひゃひゃひゃ!!!」

やれやれ、面倒くさいのに絡まれてなぁ・・・適当にあしらいますかね。

そんなことを考えながら、オレが一歩前に出ようとした瞬間、神宮寺さん(ミカエル)がずいずいっと前に出てきた。

「お兄さん・・・悪いこと言わないからぁ・・・とっとと消えなさい。」

ちょ!?神宮寺さん(ミカエル)!?

「んだぁ~金髪の姉ちゃんよぉ~、あんまり舐めてっとイロイロ痛い目あわしちゃうよぉぉぉ~ぐへへへ・・・」

そう言いながら、不良のリーダー格っぽい奴が、彼女に触れようと手を伸ばしてきた。

マズイ!助けなきゃ!

オレが静止しようと間に入ろうとした瞬間、神宮寺さん(ミカエル)が小声で呪文を唱えたのをオレはハッキリと聞き取った。

「灼熱天光破(バーニングブラスト)」

次の瞬間、ボンッという破裂音と共に、神宮寺さん(ミカエル)に触れようとした不良が地面に転がり悲鳴を上げていた。

「いってぇぇえぇええええ!!!!!!!ス、スマホが急に熱くなって破裂しやがったぁぁぁ!!!!!!」

地面に転がる不良を上から冷たい目で見下した後、真木さんとオレの方に振り返った神宮寺さん(ミカエル)は「今のうちに逃げましょう!!」と言い、動揺している不良集団を置いて駅の方まで逃げた。

「ふえぇぇん・・・こ、こわかったですぅ・・・なんだかよく分からなかったけど、逃げれてよかったですぅ~!」

「そうだね、神宮寺さん(ミカエル)。ケガとかしてない?なんだかよく分からなかったけど、逃げれてよかったね!」

真木さんが神宮寺さん(ミカエル)を心配している。

大丈夫だよ、真木さん。不良を葬ったのは彼女だからね。

「はい、怖かったけど大丈夫ですぅ。」

よく言うぜ。

そんなこんなで、オレは神宮寺さん(ミカエル)もコンピュータに対して魔法を放てることを認識した。

オレのような賢者魔法とは違い、神宮寺さん(ミカエル)の魔法は強烈な攻撃魔法だということだ。

たしか「灼熱天光破(バーニングブラスト)」って、神話で天使ミカエルが島1つ吹き飛ばしたと記されている伝説の魔法だったような・・・

その後、オレたちは改めて3人で駅まで歩き、これにて解散ということになった。

「じゃあ、今日はお疲れ様でした!また明日!」

真木さんは改札口の方に向かって歩いていく。

さて、オレは会社の近くが自宅だから歩いて帰るかな。

「神宮寺さんは、こっちの世界の家はどこにあるんだい?」

オレは別れ際に神宮寺さん(ミカエル)に尋ねる。

「ないよぉ~。芸満(ゲイマン)先輩ちに泊まる♪」

なっ!?

マジですかぁぁぁぁ!!!!

まさかの展開にオレのほろ酔い気分は一発で吹き飛んだのだった。

vol30.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.028_待機 https://finder-world.com/2020/09/more-troublesome-than-devil-vol028/ Thu, 17 Sep 2020 04:02:00 +0000 https://finder-world.com/?p=4934 神宮寺さん(ミカエル)の、あまりに初々しい挨拶に真木さんも思わず笑顔になる。

「神宮寺さん、真木です。まだ分からないことだらけかもしれないけど、一緒に頑張ろうね。これからよろしくお願いします。」

真木さんの優しい一言で、神宮寺さん(ミカエル)も安堵の笑みを浮かべる。

とても、元の世界ケプラで顕現したティアマト(真木さん)に、聖槍(ホーリーランス)をブチ込んだミカエルとは思えない変貌ぶりだ・・・

オレは2人のやり取りを苦笑いしながら見届け、話を切り出す。

「真木さん、資料作成の方は順調かな?もしよかったら、神宮寺さんがオレたちのチームに加わってくれたことを記念して、歓迎会がてら飲みに行かない?」

「あ、歓迎会いいですね!行きましょう!資料は明日中にはドラフト完成できそうです!」

真木さんが笑顔で答える。

「よかった!じゃあ、オレと神宮寺さんは1階のロビーで待ってるから、仕事のキリがいいところで降りてきてね。」

真木さんは敬礼ポーズで「了解です!」と言い、残りの仕事に取り掛かった。

「さて、じゃあオレたちは1階ロビーで真木さんを待ってよう。」

「は、は、は・・・はい!」

神宮寺さん(ミカエル)はまだ緊張しているようだ。えっと、こんなキャラだったけ・・・(汗)

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

一階のロビーは既にオレと神宮寺さん(ミカエル)以外に人はいない。今日は定時退社日というものらしく、みな早々と帰宅していった。

ロビーのソファに腰かけると神宮寺さん(ミカエル)の緊張もほぐれたみたいで、オレに話しかけてきた。

「やー、緊張したぁー!芸満(ゲイマン)先輩、よくあれだけ近くで邪神の魔力を感じておきながら平気でいられるわね・・・」

いや、オレは何も感じてないからね。

たぶん、この世界で真木さんから邪神の力を感じているのは神宮寺さん(ミカエル)だけであろう。

「まぁ、オレもケプラの人間ではあるけど、神宮寺さんと違って、ただの平凡な賢者だからね。」

オレは「あくまで平凡な賢者」だということを強調する。

「んー、そういうもんなのかなぁ。ただ、真木先輩と話している限り、邪神の意識が彼女を侵食していることはなさそうね。」

「それなら良かった。そういえば、神宮寺さんもこちらの世界・・・アースに来たってことは誰かに殺されたってこと?」

「あはは、あたしは芸満(ゲイマン)先輩と違って、霊的な生き物だから神の力を借りて割と自由に行き来できるんだよぉ。それなりにエネルギーは使うんだけどねぇ。」

「そうなのか・・・それはうらやましい限りだ。そういえば、明日から一緒に仕事するわけだけど、やっていけそうかい?」

オレは上から目線で天使ミカエルに尋ねている。冷静に考えればなんとも畏れ多いことだ。

「んー、まぁ、芸満(ゲイマン)先輩でも何とかなってるんだし、大丈夫っしょ。」

ですよねー、上から目線で話したら、さらに上から被せられたぜ。

神宮寺さん(ミカエル)は続けざまに話を続ける。

「でも、真木先輩自身は、すごく優しそうで良い人そうだねぇ~。仕事のこと色々と教わっちゃおうかなぁ~♪」

完全に新人のような話っぷりである。

まぁ、天使と邪神という相対する存在ではあるが、仲良くやってもらえるならオレも一安心というものだ。

「芸満(ゲイマン)先輩、神宮寺さん、お待たせしましたっ!」

おっ、噂をすれば真木さんが仕事を片付けてやってきた。

「神宮寺さんは、何か食べたいのある?」

真木さんが神宮寺さんに行きたい店を尋ねる。神宮寺さんは、また緊張しだしたようだ。

「え、えっと、あたしは何でも大丈夫です・・・」

「んー、じゃあ先輩と前に行った焼き鳥屋さんに行きましょうか?」

「おっ、いいね!あそこは飯も酒も旨いし、行こう行こう!」

オレも賛同し、三人で焼き鳥屋に向かった。

vol29.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.027_相対 https://finder-world.com/2020/09/more-troublesome-than-devil-vol027/ Wed, 16 Sep 2020 03:01:00 +0000 https://finder-world.com/?p=4921 「え、えっと、神宮寺さん・・・よろしく。基盤管理部の芸満(ゲイマン)です。なんでまた、アプリケーション開発部配属なのに基盤管理部の自分のところに?」

オレは動揺を必死に抑えながら、金内部長と神宮寺さん(ミカエル)を交互に見ながら話す。

「えっとぉ、あたしプログラミングは得意なんですけどぉ、インフラのことはあまり知識がなくてぇ。長くIT業界で生きてくために、勉強させてほしいって金内部長にお願いしたんですぅ。」

神宮寺さん(ミカエル)の答えに、金内部長も乗っかってオレに説明してくる。

「ヤル気あるコだろ?特にうちの部署では真木とお前は期待のメンバーだ。そこで、神宮寺さんを真木とお前に預けて成長してもらおうってわけよ。」

ま、まぁ、建前としては分かった。

そんなことより、「なぜミカエルがこっちの世界に来たか」ということを掴む必要がある。

偶然オレたちに会ったとは到底思えない。

明らかに意図的にオレに接触してきている。まずは、ミカエルと話をしなければ・・・

「金内部長、事情については分かりました。神宮寺さん、これからよろしく頼むね。まずは、オレたちが作業をしているオフィススペースを案内するよ。」

オレはそう言って、神宮寺さん(ミカエル)をオフィススペースの方に案内する。

金内部長は「よろしくー」と言って、帰宅した。

・・・・・・・

・・・・・・・

「あの・・・神宮寺さん・・・と呼んだらいいのかな?」

オレは歩きがてらミカエルに向かって、恐る恐る話しかける。

ミカエルはクスっと笑い、視線を前に向けたまま口を開く。

「そうだねぇー、ここではその名前で呼んでもらおっかな。芸満(ゲイマン)先輩♪あたしが現れて驚いたでしょ~?」

「そりゃ、さっき殺されてるから恐怖に近い驚きだね。」

オレは皮肉を込めて応える。

「もうっ、あたしだって好きで殺したわけじゃないんだよぉ~。こっちの世界に転移して真木さんをサポートできる素質をもつのは、あなただけなんだから仕方なくやってるのぉ!」

神宮寺さん(ミカエル)が、プンプン顔になっている。

可愛いんだが、本来オレなんかが気軽に話せるような存在ではないんだよな・・・なんでこうなった・・・

ミカエルはプンプン顔のまま話を続ける。

「今回、あたしがアースに来たのも、実は想定外のこと。あなたがティアマトをケプラで顕現させたことで神はこれまで以上にティアマト復活に神経を尖らせているんだよぉ。」

アース・・・こっちの世界の呼び名か。ケプラは元の世界の呼び名だ。

なるほど・・・オレが真木さんからもらったクッキーを元の世界ケプラで食べたことで、ティアマトを顕現させてしまった。

そして、それを憂慮した神が、ミカエルをアースに派遣して直接監視させようってことか。

「ミカエル・・・いや、神宮寺さん、事情は分かった。だが、こっちの世界アースで、どうやってティアマトを監視するつもりなんだ?」

神宮寺さん(ミカエル)は悩ましげな表情を浮かべ答える。

「それは、あたしも悩んでるとこなんだよねぇ。アースはケプラと違って魔法の法則が異なっているから、実力でティアマトを抑えることは難しそう。なので、ここまで真木さんとイイ感じに接している芸満(ゲイマン)先輩を見ながら、あたしなりに活動するつもり。ってなワケなので、よろしくねぇ~♪」

ふむ・・・神宮寺さん(ミカエル)も具体的な活動はこれからってわけか。

神の命令には逆らえないから、渋々来ましたってところなのかな。

「なるほど、神宮寺さんも手探りってことが分かったよ。ま、ひとまずシステムエンジニアとして人手が欲しかったのは事実だ。オレの方こそよろしく頼むよ。」

神宮寺さん(ミカエル)はニッコリ笑って、オレが指さしたオフィススペースに入って行った。

追ってオレもオフィススペースに入ると、奥の方で真木さんが黙々と資料を作っているのが見える。

そして、入り口すぐのところで険しい顔で立ち尽くし、真木さんを見る神宮寺さん(ミカエル)の姿があった。

「どうした、神宮寺さん?真木さんを紹介するから、一緒に行こう。」

オレが神宮寺さん(ミカエル)をエスコートしようとすると、彼女は恐怖を通り越して微笑の声をかすかに漏らしていた。

「フッ・・・フフフ・・・ケプラで奴(ティアマト)に聖槍(ホーリーランス)をブチ込んだ時は、大したことないと思っていたが、やはり本体と相まみえると強大な力をビンビン感じちゃうね・・・」

オレには神宮寺さん(ミカエル)の言っている意味が分からなかった。

というのも、オレは真木さんから何の力も感じていないからな。

神宮寺さん(ミカエル)クラスの存在(天使)ともなると、真木さんの中に邪神ティアマトの存在を感じ得ることができるのだろうか。正直、よう分からんっす。

とりあえず、オレは武者震いしている神宮寺さん(ミカエル)を連れて真木さんのところに行く。

「真木さん、おつかれ。ちょっとイイかな?金内部長がオレたちのサポート役に1人新人さんを付けてくれたんだ。」

真木さんがキーボードを打つ手を止めて、こちらを見る。

「あ、芸満(ゲイマン)先輩・・・新人さんって・・・えと・・・こちらの方がそうですか?」

神宮寺さん(ミカエル)はオレの後ろに隠れ、ソーっと顔を出して真木さんを見ていた。何をやっているんだコイツは・・・

「そ、そうそう、ちょっと緊張しているみたいなんだけど、プログラミング大会でも優勝した実力者だ。神宮寺さん、挨拶しとこっか。」

オレは神宮寺さん(ミカエル)をグイっと前に押し出して、真木さんの正面に立たせる。

傍からみたら、入社したての新人さんと先輩社員の挨拶風景。

よもや、天使ミカエルと邪神ティアマトが相まみえている光景だとはオレ以外知る由もないだろう。

神宮寺さん(ミカエル)は、声を絞り出すように真木さんに向かって第一声を放った。

「は、は、は・・・はじめましてぇ!!!ファインダーシステム部アプリケーション開発部に配属になったじ、神宮寺といいます!ま、ま、真木先輩・・・これからよろしくお願いしますっ!!」

オレはズッコケそうになった。

じ、神宮寺さん(ミカエル)・・・本当にただの新人じゃないよね・・・?

vol28.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.026_新人 https://finder-world.com/2020/09/more-troublesome-than-devil-vol026/ Tue, 15 Sep 2020 03:24:00 +0000 https://finder-world.com/?p=4908 ファインダーシステム社に戻り、さっそく真木さんとクラウド移行後のオンラインゲームリニューアルについて検討することにした。

さっき里中部長に説明した提案資料の中で、運用費用が年間いくら削減できるかは提示した。

これから要検討な点として、その削減できた運用費用をオンラインゲームの改修費用に当てることができるのか、どのようにオンラインゲームをリニューアルさせるのか、がポイントになりそうだ。

「とりあえず、今オレたちが見ているオンラインゲームをどのようにリニューアルするのかをザックリ決めて開発部に見積もり取ってみようか?」

オレは真木さんに今後の進め方を提案してみる。

「そうですね、リニューアルについては実は私の方で結構案があるので、ちょっと資料に落としてみますね。」

えっ、そうなんだ。既に構想があるなんて、どんだけ仕事早いんだ・・・

「もうリニューアル案あるって、なかなか普通ではできないよ!前から考えていたとか?」

オレは真木さんに質問してみる。

どうやら図星だったようで、真木さんは少し照れながら話し出した。

「はい・・・実は私もこのオンラインゲームのヘビーユーザーで・・・1ユーザとして、前からこうしたいなっ・・・ていう想いがあったんです。まさか、本当にリニューアルの話が出てきて、それを検討する当事者になるとは思ってもみませんでしたが・・・」

そうだったのか。オレはこのオンラインゲームの中身すら分からないが、真木さんはユーザの立場でもずっと、このゲームのことを見てきたんだな。

「OK、じゃあオレは別途来ている障害対応の方を片付けておくから、資料できたらまた話そう。」

そう言って、オレは障害対応の分析依頼などを魔法でホイホイと片付けていった。

他のメンバーたちは、オレがどんどん障害をさばいていくのを惚れ惚れとした表情で見ている。

うむ。どうやら、オレはシステムの障害対応に向いている(?)のかもしれないな。

・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・

夕方になり、システム障害対応も片付いた。休憩スペースでオレはお茶を飲んで一休みをしていた。

真木さんはオフィススペースで黙々と資料を作っていたので、戻ったら声かけてみるかな。

お茶も飲み終え、オフィススペースに戻ろうとすると、休憩スペースに入ってきた金内部長がオレを見つけて声をかけてきた。

「おぉ、芸満(ゲイマン)!探したぞ!こんなところにいたのかぁ!」

相変わらず声がでかい。どうやら、オレを探していたようだが何の用だろうか?

「金内部長、どうしたんですか?障害対応がある程度片付いたので、休憩させてもらってました。」

「そうか、そうか!お前の活躍は聞いているぞ。いやな、お前や真木は基盤管理部内でもかなり頑張ってるだろ?なので、一人メンバーを付けてやるから好きにつかっていいぞ!」

好きに使ってって・・・また、雑な振り方だなぁ・・・

だが、真木さんも資料作りや障害対応など、仕事が大変だろうから悪い話ではないか。

「ありがとうございます、金内部長。で、その新しいメンバーの方はどちらに?」

オレが金内部長に尋ねると、一人の女性が休憩スペースの入り口から入ってきた。

「紹介しよう。アプリケーション開発部期待の新人で神宮寺さんだ。彼女はプログラミング大会でも優勝経験があるので即戦力だぞ!」

金内部長の紹介を受け、その女性はオレの前まで来て挨拶をする。

「はじめましてぇ♪アプリケーション開発部の神宮寺ですっ!」

オレはその姿と話し方を見て、言葉を失った。

金髪のボブに軽い口調、白い羽こそ生えていないが、彼女は紛れもなく・・・

つい先刻、オレを殺し、この世界に強制転移させた諜報人・・・天使ミカエル・・・っ!!!

vol27.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.025_対案 https://finder-world.com/2020/09/more-troublesome-than-devil-vol025/ Mon, 14 Sep 2020 01:08:00 +0000 https://finder-world.com/?p=4897 会議室に入るや否や、里中部長はオレたちに頭を下げた。

「まず本日の打ち合わせの前に謝罪を。御社で見ていただいているオンラインゲームについて、弊社の佐伯がキャンペーンを打つ事前連絡を怠り、大変ご迷惑をおかけしました。」

そういえば、そんなことあったな。

ハードウェア障害でダウンしていたサーバをオレの「蘇生(リバイブ)」で復活させ、なんとか負荷に耐えることができた一件のことだ。

「いえいえ、突然サーバの負荷が上がり驚きましたが、今回はなんとかキャンペーン中の負荷にも耐えることができました。」

金内部長が、里中部長の謝罪の弁に応えながら話を続ける。

「それでですね、里中部長。お電話でも話した通り、今回のキャンペーン中は何とか耐えられたサーバですが、そろそろ限界が来ています。本日は、これを打開するためにクラウド化の提案資料をお持ちしたので説明させていただきます。」

里中部長は頷くと、真木さんが印刷してきた提案資料を受け取った。

・・・・・・・・

・・・・・・・・

真木さんは、非常に熱心に、そして分かりやすく提案資料の内容を説明した。

途中、里中部長から質問があったが、ちゃんと答えることができている。

「なるほど・・・御社の提案はよく分かりました。今のサーバをクラウド化する価値は大いにありそうですね。」

里中部長が提案資料に視線を落としながら、そう話す。おしっ!感触よさそうじゃないか!

「ただ、懸念点が一つ。それも重大な。」

視線をまっすぐオレたちに向けた里中部長は、話を続ける。

「正直なところ、この前のキャンペーン効果は弊社としては想定を大きく下回る結果でした。」

なっ!?

真木さんと金内部長の顔が曇る。里中部長は気にせず淡々と話す。

「弊社の想定したキャンペーン効果だと、この前実際に増えたアクセス人数の倍は見込んでいましたので、想定キャンペーン効果を得られなかった要因は大きく2つだと思っています。」

「要因その1は、キャンペーン自体の内容がユーザにヒットしなかった。この場合、キャンペーン内容を改善することで、より多くのユーザがアクセスしてくれる可能性はあります。」

「要因その2は、そもそも今のオンラインゲームがトレンドではなくなってきているということ。」

なるほど・・・じゃあ里中部長の想定だと、本当はもっと負荷がかかるくらいのユーザがアクセスしてきてほしかった・・・ということか。

仮にあの時、もっとユーザ数が増えていたらオレの魔法を使っても、太刀打ちできなかったかもしれない。

「里中部長・・・それで、御社は2つ考えられる要因のどちらだと考えているのでしょうか・・・?」

真木さんが真剣な顔で質問する姿を見て、里中部長も真木さんの方向に向き直った。

「結論から申しますと、要因その2だと考えています。サービスを始めて約7年。オンラインゲームとしては長命ですが、グラフィック、ユーザインターフェース含め、時代遅れだと言わざるを得ません。」

真木さんはガックリとうつむいた。

くそっ、真木さんの提案自体は決して悪くないはずだ。なんとかしてクラウド化の提案を採用してほしいが・・・

オレに出来ることはないか?オレは頭をフル回転させて考えた。

・・・・・・・・

・・・・・・・・

!!

そうだ、真木さんが説明の中で話していたように、クラウド化することで今の運用費用を抑えることができると言ってたな。

だったら、クラウド化した後に浮いてくるお金を使い、オンラインゲーム自体もリニューアルしたらいいんじゃないか?

「里中部長!」

オレは里中部長に、クラウド化することで浮いたお金をオンラインゲームの改修に当て、今の時代にあったオンラインゲームにしてはどうかと話した。

「なるほど、それは一理ありますね。クラウドへの移行費用で一時的にコストはかさむが、長いスパンで見ると運用コストは大きく削減できるでしょう。そこで浮いた費用でこのオンラインゲームを改修する価値はありそうですね。」

里中部長も同意を示す。言ってみるもんだな!

「この件は、今この場で決めるには難しい事案なので、検討させていただき、後日改めて会話させてください。」

こう言い残し、里中部長との会議は終わった。

ファインダーシステム社に戻る途中で、金内部長が労いの言葉を真木さんにかけていた。

「真木、今日のプレゼンは良かったぞ。お前の提案がキッカケで、提案どおりの結果とはならなかったが、クラウド移行案件の可能性は残ったし、もしかするとオンラインゲーム自体の改修にも手を出せるかもしれないな。」

「はい・・・里中部長の発言を聞いたときは、もうこのオンラインゲームはオワコンだと言われた気がしてガッカリしましたが、芸満(ゲイマン)先輩が対案を出してくれて本当に助かりました。」

オレは照れ隠しとばかりに、鼻の頭をポリポリとかく。今回もなんとか真木さんの役に立てたようだ。

これまでは障害対応や佐伯の不正暴露など、ピンチになっても魔法の力を借りて何とかやり過ごしてきたが、今日のような純粋な話し合いでは出番すらなかった。

SEとして頭を使って勝負しなければならないので、この先も真木さんを支えられるだろうか・・・

オレが不安に思っていると真木さんがオレに話しかけてきた。

「芸満(ゲイマン)先輩、会社に戻ったら少しお時間いただけますか?先ほどの打ち合わせで出たクラウド移行後のオンラインゲームリニューアルの件、もう少し具体的にした方がいいかなと思って。」

・・・ふっ。

どうやら、オレはとんだ思い違いをしていたようだ。

オレは真木さんを支えなきゃという考えで頭がいっぱいだったが、真木さんは彼女なりに考えをもって前に進もうとしているじゃないか。

何もオレ一人で全てをしょい込む必要はないんだ。

「真木さん、いいねー!もちろん、一緒に検討しよう!」

オレは笑顔で真木さんの願いに応えた。

vol26.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.024_変化 https://finder-world.com/2020/09/more-troublesome-than-devil-vol024/ Fri, 11 Sep 2020 03:07:00 +0000 https://finder-world.com/?p=4886 目が覚めると、そこはSE芸満(ゲイマン)の部屋だった。

もうこのパターンにもいい加減慣れてきたので、特段の驚きや戸惑いはない。

オレは天使ミカエルの聖槍(ホーリーランス)に貫かれ死んだ。(十中八九、勇者も死んでるな)

そして、神の力によってこちらの世界に転生・・・もとい、転移したというわけか。

そして、転移の目的は神話時代に神が倒した邪神ティアマトの復活を阻止すること。

・・・・・・・

「ぐおぉぉぉぉぉあああああああああ!!!!!!」

話があまりにもデカすぎてオレは思わず、その重圧に耐えきれず叫んでしまった。

はぁはぁ・・・オレにどうしろってんだ。

ミカエルが言うには、邪神ティアマトが転生した真木さんの中で不安や悩みが大きくなることで、邪神の意識が強まると。

そして、オレが真木さんをサポートすることで、邪神の意識を抑えることができる・・・とも言っていた。

オレに出来ることなんて、こちらの世界では非力も同然だが、真木さんの力にはなりたいと思っているから、サポートすること自体に異論はない。

だが、人間はどう生きたって悩み、苦しみ、もがく生き物だ。

それらを全て抑えこむことなんて出来るはずがないし、抑え込むなんて気持ちが悪い。

それに、一瞬ではあったが、邪神ティアマトにオレは何ら敵意も感じなかった。

・・・くそっ、何が正しいのか分からない。

オレが頭を抱えていると、枕元に置いてあったスマートフォンが鳴った。

ラインっ

真木さんからだ・・・

『芸満(ゲイマン)先輩、おはようございます!すみません、電車が少し遅れているみたいで、鈴木グローバルテクノロジーシステム社での待ち合わせ時間に遅れそうです。』

そうだった。今日は里中部長に真木さんが考えたクラウド化の提案書を説明しに行く日だ。

オレは慌てて着替え、鈴木グローバルテクノロジーシステム社に向かう。

社に到着すると、受付ロビーに見慣れた中年のオッサンが仁王立ちで待ち構えていた。

「よぉ!芸満(ゲイマン)。おはようさん!今日はよろしく頼むぜー!」

金内部長だ。

本当は昨日ぶりなんだろうが、オレは元の世界に戻って色々あったので久ぶりな感じだ。

「おはようございます、金内部長。真木さんは、電車の都合で少し遅れてくるそうですよ。」

オレは軽く会釈がてら挨拶し、真木さんが遅れてくることを伝える。

「そうかぁ、了解。ところで・・・」

金内部長はオレを近くにあったソファに座らせ、隣に座ってきて耳の近くでコソコソと話してきた。

「真木のことだが・・・最近よく頑張っているが、お前なんかしたのか?」

えっ!?金内部長も真木さんが最近変わったと思っているのか。

「いえ、オレ・・・いや、私は特に何もしてないですよ。気づいたときには、既に真木さんはとても頑張っているコでしたけどね。」

オレは金内部長に返答する。

金内部長はそうかぁと言わんばかりに、オレから少し離れ、顔を上に向けて座りなおした。

「いや、な。お前がこの前、障害をババっと直したあたりから真木が変わったなぁと思ってな。それまでのあいつは、言われた仕事は一生懸命やっていたが、何やってもダメで、周りからも怒られっぱなし。ついには仕事もあまり振られなくなってきている感じだっただろ。」

そ、そうなのか。

その話は俄かに信じがたいが、オレが初めてこの世界に転移してくる以前の話なので事実だと捉えるしかない。

「そ、そうでしたっけね。でも、最近は少しずつ自分に自信を持ってきて、積極的に仕事に取り組んでいますよ。」

オレは素直に思っていることを金内部長に話した。金内部長も嬉しそうに頷く。

「あぁ、たぶんだが、お前のサポートが真木には合っているんだろう。アイツはまだまだ伸びる。これからも面倒みてあげてな。」

そう言いながら金内部長は、オレの肩をバンバンと叩く。い、痛い。

だが、もし金内部長の言っていることが本当ならば、オレが転移する前の真木さんは相当な悩みや不安を抱えていたのだろう。それによって、邪神ティアマトの意識が徐々に復活したのかもしれない。

「か、金内部長~!芸満(ゲイマン)先輩ぃ~!遅れてすみませんでした・・・!はぁはぁ・・・」

おっ、噂をすれば真木さん到着。まだ打ち合わせまで時間があるから、そこまでダッシュしてこなくてもよいのに(笑)

「おはよう真木さん、昨日はぐっすり眠れたかな?」

オレは真木さんに笑顔で話しかける。

「おはようございます、先輩!昨日は久しぶりに爆睡しちゃいました!」

はは、それはよかった。元の世界で見たティアマト版の真木さんの表情とは違ってやっぱり温かい感じがするな。

・・・・・・

・・・・・・

ミカエルは言った。『ティアマトの復活を阻止せよと。』

そして、復活のカギは真木さんの精神状態に深く関わっている。

正直言って、ティアマトの復活阻止なんてオレには責任重大すぎて背負いきれるとは思えない。

だが、真木さんをオレの出来る範囲でサポートすることは出来るはずだ。

鈴木グローバルテクノロジーシステム里中部長が受付までエスコートしに来た。

「おはようございます。みなさん。さぁ、こちらの会議室へどうぞ。」

里中部長は、通路奥にある会議室にオレたち3人を通す。

「真木さん、何かあったらオレがフォローに入るから、思い切って説明しなよ。」

オレは真木さんに拳を向けた。

「はい!芸満(ゲイマン)先輩。私・・・頑張ります!」

真木さんはオレの拳に彼女の拳を軽くぶつけてきた。

魔王討伐より面倒なミッションを抱えてしまったが、こうなったらやるっきゃない。SE芸満(ゲイマン)、いくぜ!!

オレは気合を入れて、会議室に足を踏み入れた。

vol25.へ続く

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(小説ブログ)魔王より面倒!SEになった賢者さんvol.023_天使 https://finder-world.com/2020/09/more-troublesome-than-devil-vol023/ Thu, 10 Sep 2020 04:04:00 +0000 https://finder-world.com/?p=4869 「ちょ・・・け、賢者さん・・・なんかスゲーことになっちゃってるじゃん?」

こんな状況でも勇者は、いつもの勇者だな・・・心の中では楽しんでいるんじゃないかと勘繰りたくなる軽い口調だ。

ちなみに戦士と魔法使いは既に教会送りになったようです。合掌。

それよりも、天から舞い降りてくるのは・・・まさか・・・

オレがその姿を見上げていると、「ソレ」は上からオレを見ながら口を開いた。

『こんにちわ!!芸満(ゲイマン)先輩!驚かしてゴメンなさいねぇ~、ケガは大丈夫ぅー?』

かるっ。

勇者を上回る、その軽い口調にオレはズッコケそうになった。しかも、なぜあちらの世界でのオレの呼ばれ方を知っている?

天より舞い降りた「ソレ」は、よく見ると可愛らしい女のコだ。

金髪のボブに白く輝く美しい羽が何とも特徴的だが・・・

「え、えっと・・・さっきの槍を放ったのは、君か?」

オレは恐る恐る、そのコに話しかける。

『そだよ~、アタシの聖槍(ホーリーランス)をぶち込んであげたんだぁ~』

「ほ、ホーリーランス!?」

隣にいた勇者が仰天する。

「聖槍(ホーリーランス)の使い手といえば、俺が知る限り、ただ一人。神話に出てくる天使ミカエル・・・!」

ミ・・・ミカエル!?

話がぶっ飛びすぎている・・・さっきまで戦っていた魔王四天王のレーヤでさえ、オレたちにとっては強大な存在だったが、それを超越しすぎていて訳が分からない。

オレと勇者が驚きぶったまげているのをヨソに、ミカエルは話を続ける。

『本当は、芸満(ゲイマン)先輩にあちらの世界でティアマトを抑え続けてもらうのを期待していたのに、まさかコッチの世界に連れてきちゃったから慌てて飛んで来たんだよぉぉ~もうっ!』

「オレが邪神ティアマトを抑えるだと・・・?それはどういうことだ??」

オレはあちらの世界でSEとして活動していただけだぞ・・・なぜ、そこに邪神ティアマトの名前が出てくる?というか、オレに抑えられるわけないだろ・・・

ミカエルは呆れた顔でオレの問いに答える。

『もうっ!分かってないんだからぁ!さっき、邪神が言ってたでしょ。真木ちゃんっていう女の子がティアマトなのっ。芸満(ゲイマン)先輩が彼女の不安や悩みを解消してあげることで、ティアマトを抑えることができるんだよっ!』

なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!?

ミカエルは話を続ける。

『ティアマトが転生した真木ちゃんっていう女の子は、もともと明るいコでティアマトの意識が顕在することはなかったの。でも、大人になるにつれ、悩みや不安の要素が大きくなって、ティアマトの意識が神にも感知されるほどになってきたっていうわけ。』

「そ、それで、オレが神様に選ばられて、向こうの世界にティアマトを抑えるために転移させられたってこと・・・なのか?」

オレは困惑しながらミカエルに尋ねる。

『そういうことー。ま、なんでアナタが選ばれたかっていうのはアタシにも分からないんだけどねぇ。神のみぞ知るってとこかな。』

ぐっ、一番そこが気になるんだが・・・いや、でも仮にオレがティアマト・・・もとい、真木さんの悩みや不安を解消できなかったらどうなるんだ・・・?

オレの疑問を先読みしたかのように、ミカエルが軽口で答える。

『ちなみに・・・アナタがティアマトを抑えられなかったら・・・真木って女の子の意識はティアマトに乗っ取られる。そして、本当に邪神の力を取り戻してしまったら、こちらの世界にまで再び禍(わざわい)をもたらすわ・・・』

・・・・・・・

「あ、あの・・・オレの責任が超重大ってことは分かりました・・・色々とツッコミどころ満載なんだけど、オレはこれからどうすれば・・・?」

ミカエルはオレの質問にニッコリとした笑顔を見せる。

『もちろん、また向こうの世界に行ってもらうわぁ。ティアマトの意識が弱い今のうちに、しっかりと真木ちゃんをサポートしてあげてねん!』

次の瞬間、ミカエルは聖槍(ホーリーランス)を手に取り、オレに向けてきた。

「ちょっ・・・!!ミカエルさん、何を・・・!?」

オレが慌てて後ろに下がると、キョトンとした顔でミカエルが口を開いた。

『なに・・・って?だって、向こうの世界に行くには、アナタに死んでもらわなきゃ。もう何度か経験済みでしょ?うふっ』

「や、やっぱり死んだら向こうの世界に転移するっていう仮説は間違っていなかった・・・って、そんなことより、こんなことして、本当に天使かっ!?」

ミカエルは笑顔を崩さない。

『天使の役目は神の意志を遂行することよん。神の意志はティアマトの復活を抑えること。ということなので、がんばってね、芸満(ゲイマン)先輩♪』

「このっ!!!させるかっ!!!」

勇者がオレの前に立ち、ミカエルの攻撃を受けようとする。

ミカエルはお構いなしに、こちらに向かって聖槍(ホーリーランス)を放った。

ブオッ!!!!!!!

次の瞬間、勇者とオレは一直線上に聖槍(ホーリーランス)によって貫かれ、そこで意識は途絶えた。

vol24.へ続く

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